2011-07-01から1ヶ月間の記事一覧

責任感

山崎正和さんの『鴎外 闘う家長』(河出文芸選書版、1976年)です。 なんでいまごろといわれるかもしれませんが、鴎外の仕事を、家の中での立場とあわせて考えるというのは、けっこう大切な視点かもしれません。ドラマの『坂の上の雲』でも、戦場で子規とか…

分裂

河出の世界文学全集の、『苦海浄土』です。 本編のほかに、「神々の村」「天の魚」と、3部作をすべて収録、ということのようです。 実際の、患者に寄り添った著者の道行きは、最後のほうでは、東京のチッソ本社でのすわりこみに一緒に参加し、そこで会社側と…

見てしまった

小松左京氏、死去。 『日本沈没』(光文社、1973年)は中学生のころだったので、いろいろと科学的な方面なども学んだ気もしています。 東日本の震災と、原発事故を通ってしまうと、あの作品をもう一度、きちんと考えなければならないかもしれません。 あの当…

あからさまに

昨日の記事に、あさくらはじめさんからコメントをいただきました。また、あさくらさんに紹介していただいたサイトにもおじゃまして、コメントをつけてお返事もいただきました。 ですので、コメント返しではなく、エントリーをあらためて、補足をしたいと思い…

知られていたのか

(注意)映画『コクリコ坂から』の設定にかかわる問題提起です。ネタバレのいやな方は、見ないでください。 映画『コクリコ坂から』は、主人公の父親の友情が、ひとつの大きなストーリーの骨格をなしています。親友3人で写った写真(たまたま真ん中になった…

視線

『コレクション 戦争×文学』(集英社)の〈ヒロシマ・ナガサキ〉の巻です。 ひさしぶりに「祭りの場」など読み返したのですが、破壊のなかで生きるすがたが、印象に残ります。この巻の作品に対して、考えなければならないことは多いようです。 ただ、井上光…

掘り起こす

小ネタですが。 娘の通っている大学には、奉安殿として使われていた建物が残っているということを昔書きました。大学の様子を保護者に連絡する通信が最近送られてきたのですが、それによると、今後、その建物に、〈かつて奉安殿だった〉という説明板を設置す…

待っていた

『母が語る小林多喜二』(新日本出版社)です。 多喜二の姉の知り合いの方が、多喜二の母に聞き書きをして、それを出版する計画をたて、予告まで出ながら挫折し、結局原稿が小樽の文学館に保管されていた、という経過をたどったものを、今回荻野富士夫さんの…

受けとめる

塚原理恵さんの『孤独のかたち』(光陽出版社、民主文学館)です。 塚原さんは、長く看護師をつとめられて、その経験の中から小説を書き始めました。この作品集にも、看護師体験に基づく作品が多く収められています。 人の命とかかわる場面にありながら、医…

世代差

黒井千次さんの『時代の果実』(河出書房新社、2010年)です。 単行本未収録のエッセイを集めたものですが、戦後の回想や、亡くなった作家の思い出など、いろいろと多岐にわたっています。 黒井さんは、私の父親と同じ歳で、勤務していた会社も自動車関係と…

外から

アン・アリスン、実川元子訳『菊とポケモン』(新潮社、2010年、原題はMillennial Monsters、2006年刊)です。 外からどう見られるのかを日本人ほど気にする国民はないと、どこかで聞いたような記憶がありますが、この本は、日本発の文化が、アメリカでどう…

守るべきもの

小金井喜美子『鴎外の思い出』(岩波文庫、1999年、親本は1955年)です。 鴎外の妹で、人類学者の小金井良精に嫁いだ方ですね。星新一の祖母ということでご存知の方もいらっしゃるでしょう。 鴎外に限らず、当時のいろいろなできごとの回想でもありますし、…

順繰り

『群像』8月号に、古井由吉さんが、空襲体験を小説化した作品を書いています。古井さんは1937年うまれだというので、戦争が終わったときに8歳ということになるのでしょうか。 古井さんたちを、〈内向の世代〉と位置づけたのは、かれらより年長で、軍隊の体験…

入り口から

旺文社の入試問題集からです。「日本で日本語を勉強しているスミス君がこういいました。『〈スミスは背が高すぎて、この部屋には、はいれない〉とは言えるのに、〈この本棚は大きすぎて、この部屋には、はいれない〉とはいえませんね。どうしてですか』これ…

政権交代

また小ネタかもしれませんが。 早朝のニュースで、スペースシャトルの打ち上げが成功したといっていました。〈最後の〉シャトルだということで、これからは国際宇宙ステーションへの連絡はソユーズを使うのだということです。 1957年にスプートニクが最初に…

こういうのもあり

ちょっとした小ねたですが。 旺文社の大学入試問題集の、国公立大学編が出て、めくっていたのですが、三重大学の小説問題に、浅尾大輔さんの「ブルーシート」が題材として選ばれていました。彼の作品の、喩の内実を記述させる問題です。 以前、奈良女子大学…

もりだくさん

福山瑛子さんの書き下ろし、『キューバにかかる虹』(柏艪舎)です。出版社は札幌にあります。 1977年に、翌年にひらかれる〈世界青年学生祭典〉の準備状況を、各国のジャーナリストたちが取材に訪れるのですが、その中の一員として参加した女性記者(作者の…

道半ば

黒岩比佐子さんの『パンとペン』(講談社、2010年)です。 堺利彦の生涯を、売文社時代のことを中心に追ったものですが、堺自身の生涯もなによりですが、その周辺の人たちの行動にも目を配って、いろいろなエピソードを掘り起こしています。この前ふれた児玉…

虚構の節度

大河ドラマが日本人の歴史認識の一端をつくっているのではないかと思うときがときどきあるのですが、昨日も、秀勝と江が炭の配達にかこつけて軟禁中の利休を訪れる場面で、直江兼続が(それと明示せずにかぶとのしるしでわからせる演出でしたが)登場したと…

代償

児玉花外『社会主義詩集』(日本評論社、1949年)です。 もともとは、1903年9月に、「安寧秩序を害する」という理由で発売禁止に追い込まれ(書下ろしではなく、いろいろなメディアに既発表のものを集めたのですが)た本で、その後行方不明になっていたのを…