2007-02-01から1ヶ月間の記事一覧

どうしてこうなったのか

国分隼人さんの『将軍様の鉄道』(新潮社)です。 どうみてもペンネーム(日豊本線で国分駅と隼人駅とは隣り合っています)なのはあの国での取材をしているからにはやむをえないと思います。 さて、あの国では、石油が不足がちなので、国内でできる資源を利…

便利さのかげで

佐伯一麦さんの、『石の肺』(新潮社)です。 佐伯さんは、電気工事の仕事をしながら小説を書きはじめたかたなのですが、健康を害して作家専業となったのです。それは、工事の過程で、建物の天井裏や壁などをいじると、どうしてもそこに吹き付けられているア…

生兵法

井上勝生さんの『幕末・維新』(岩波新書、2006年)です。 今までの思い込みの多かった近代史を、新しい研究成果にもとづいて書いたもので、それまでの「常識」とはちがった観点も多く見られます。 幕末の開国に関しても、最初は各大名も、公家もみんな条約…

傷跡

朝日新聞22日づけに、神社の数についての記事がありました。それによると、新潟県は4000以上もあるのに、和歌山県は426と、一割以下だそうです。 南方熊楠が、神社合祀に猛烈な批判をしたと、話ではきいていましたが、その結果がこういう形で、数となってあ…

早すぎたのかもしれない

後藤禎二『シャルダン』(青木文庫、1952年)です。 シャルダンというのは、18世紀に活躍したフランスの画家で、庶民の生活に取材した絵を多く描いた人なのだそうです。この本では、カラーもまじえて、彼の絵を図版として多く収録しています。1952年という時…

仮名実名

2月20日は多喜二の日ですが、その話題ではなくて。 講談社文芸文庫の室生犀星『あにいもうと・詩人の別れ』(1994年)です。解説を書いているのは、中沢けいさんで、子どもの頃(14・5歳のころだそうですが)「あにいもうと」を読んで、「私というものの…

固定化

吉川徹さんの『学歴と格差・不平等』(東京大学出版会、2006年)です。 著者は、今の日本を考えるとき、学歴に注目すべきだというのです。というのは、今の日本は現在の教育制度が60年続いて、社会の状況をみていくのに役に立つ指標であると考えています。実…

ちょっと番外

朝日新聞の報道によると、浅野元宮城県知事に都知事選挙に出てほしいという集会があって、川田龍平さんも参加したとか。川田さんは、今度の参議院選挙に東京から立候補する意思を明らかにしているといいますから、あえて書きますが、浅野さんに出てほしいと…

読みやすさ、よみにくさ

河出書房新社から〈ベルトルト・ブレヒトの仕事〉全6巻が再刊されています。 とりあえず、現在3巻まで出ているのですが、そのうちの最初2冊を読みました。 ブレヒトの文章は、河出のほかにも白水社からも出ていて、そういう点では、どうそろえれば重複をいと…

便乗

山田清三郎『白鳥事件』(新風舎文庫、2005年)という本です。 しかし、けっこう奇妙な本なのです。親本は1977年に、『白鳥事件研究』と題して白石書店から出版されたものなのですが、この文庫には、和多田進さんが、長い〈解説〉を書いているのです。 白鳥…

季節の移り

近藤瑞枝さんの『春のあらし』(光陽出版社)です。 近藤さんは、長く青梅の市会議員を勤められた方で、議員を引退したあと、小説を書き始めたのです。『民主文学』や、民主主義文学会の多摩東支部の雑誌『欅』に発表したものを中心にまとめた作品集です。 …

紙一重

河合恒生・所康弘さんの『チャベス革命入門』(澤田出版、2006年)です。 『しんぶん赤旗』に新藤さんの書評が載ったので、そのあと追いみたいになってしまうかもしれませんが、ともかく。 ベネズエラのたたかいが最近注目されています。反対勢力のクーデタ…

議論の白熱

黒田俊雄さんの『歴史学の再生』(校倉書房、1983年)です。 網野善彦さんのおかげで、中世の歴史に関しては、一般書の分野でいろいろと読みやすいものが生まれているのですが、黒田さんの本は、岩波新書の『寺社勢力』くらいしか一般書がないので、このエッ…

あのころは冗談ですんだ

渡辺和博さんの訃報をみました。 『金魂巻』(出版社は覚えていませんが1984年だったと思います)の人というイメージしかないのですが、1980年代前半に、○金と○ビという形で、当時の社会の中にあった、隠された格差をあらわにしたことが記憶に残っています。…

さらばシベリア

大瀧詠一さんに悪いので、題目はこの程度で。 『すばる』3月号から新連載が、森まゆみさんの紀行エッセイ。「晶子、百合子、芙美子」がメインタイトルです。与謝野晶子・中条百合子(宮本百合子)・林芙美子という3人の文学者が、シベリア鉄道をつかって旅を…

苦界というけれど

明治づいているというわけでもないのでしょうが、横山源之助『明治富豪史』(現代教養文庫、1989年、親本は1910年のよし)です。横山は『日本の下層社会』(岩波文庫)で知られる、明治のルポライターで、当時の労働者の姿をえがいた文章で有名なひとです。 …

芸者ふたたび

以前、ここで佐多稲子の手紙を紹介したときに、金子光晴との間のやりとりを書いたことがありました。壺井栄の通夜のときに、金子が「芸者みたい」と佐多のことを評した言葉に、佐多が激怒して手紙を書いたというのです。 『民主文学』3月号に、土井大助さん…

衆寡敵せず

池田一彦さんの『斎藤緑雨論攷』(おうふう、2005年)です。明治の批評家、斎藤緑雨は、鴎外や露伴とともにおこなった創作合評「三人冗語」で知られているというのが現状かもしれませんが、その緑雨についての、研究論文を集成したものです。そういう事情で…