2010-01-01から1ヶ月間の記事一覧

後追い

サリンジャーさんが亡くなったとかききました。 『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(村上春樹訳、白水社、2003年)と、それがらみの『サリンジャー戦記』(柴田元幸との共著、文春新書、2003年)程度のことしか知らないのですが、〈ライ麦〉をよんだとき、主…

償い

ともひろさんの事件の公判がはじまったようです。 前にも書きましたが、この事件を社会の問題としてとらえることへの攻撃がはじまっています(『ストリートの思想』の人は、『ロスジェネ』の人たちを全体主義と言いましたし、『文藝』には、派遣労働者への侮…

ごった煮

岩波文庫の『明六雑誌』(全3冊、山室信一・中野目渡校注、上は1999年、中は2008年、下は2009年)です。 最初に出たときには、雑誌全冊活字化ときいて、そういうのはありかとも思いましたが、いちおう、全部出てみると、1870年代の日本が、けっこう浮かび上…

歩く速さ

旭爪あかねさんの『月光浴』(新日本出版社)です。 『稲の旋律』からはじまる三部作のラストになるのでしょうか、主人公の女性の、周囲とのかかわりを描いています。『稲の旋律』では、引きこもりに近い状況で、他者とかかわりをもつことに苦しんでいた主人…

役割をはたす

本屋で、今年の〈書物復権〉のパンフレットをもらいました。 今回は、各出版社が、候補を出し、2月末までにリクエストを募るのです。 その中に、坪井洋文(1929-1988)の、『イモと日本人』(1979年)、『稲を選んだ日本人』(1982年)の2点がありました。(…

間があく

桑原武夫『論語』(ちくま文庫、1985年、親本は1974年)です。 『論語』のような本は、誰がどう読んでもいいものですから、内容はとくに言うこともないのですが、もともとこの本は、筑摩書房の〈中国詩文選〉のシリーズの1冊でした。 このシリーズは、全24冊…

風俗壊乱

アルベルト・モラヴィア『無関心な人びと』(河島英昭訳、岩波文庫2冊、1991年、原作は1929年)です。 ローマを舞台にして、当時の中産階級の欺瞞をあばく作品です。 主人公の青年は、自分をとりまく環境にいやけがさしています。父はなく、母は愛人の男を公…

距離感

去年の『坂の上の雲』も、今年の『龍馬伝』も、画像処理が、映画フィルムを意識しているのか、今までと変わっています。かえって見づらいのですが、どういうものでしょうか。 昔、1970年代に、NHKの名古屋制作の〈少年ドラマシリーズ〉というのがあって、当…

意外なところで

今年のセンター試験の小説問題は、中沢けいさんの『楽隊のうさぎ』(新潮社、2000年)でした。中沢さんの作品は、けっこう心理描写が複雑なので、入試問題には向かないかなともおもっていたのですが、それでも、この作品なら、まあ、問題にはできるでしょう…

このころすでに

安岡章太郎さんの『利根川・隅田川』(旺文社文庫、1977年)です。収録された「利根川」は1966年、「隅田川」関連の文章は1972年ごろのものです。 安岡さんは、利根川を源流から河口までくだってゆきます。当時は、まだ利根川上流のダム建設が端緒についたば…

追憶

岩波ブックレット『加藤周一のこころを継ぐために』(2009年)です。 2009年6月に行われた、「九条の会」の講演会の記録に、成田龍一さんの文章をあわせたもののようです。「九条の会」の呼びかけ人のかたがたと、配偶者の矢島翠さんの講演が収録されていま…

まとめることの大切さ

大森寿恵子さんが亡くなられました。宮本百合子の研究に力を注がれ、1979年から刊行された『宮本百合子全集』(新日本出版社)の編集・解題に当たられた方です。百合子の手紙や日記を読んで、『伸子』の執筆開始が離婚前であったことを論証もされました。 直…

先を行く

メアリー・マッカーシー『アメリカの鳥』(中野恵津子訳、河出書房新社、2009年、原著は1971年)です。 1964年から65年を舞台にして、ひとりの、父がイタリア系ユダヤ人で、母親が音楽家という、19歳の青年を主人公にした、アメリカ文化を批評した作品です。…

かぶってくる

この前、『ストリートの思想』の著者が、『ロスジェネ』の人たちに全体主義のにおいを感じていると考えていることを書きましたが、『文藝』春号で、立木康介(ついき こうすけ)さんという方が、「露出せよ、と現代文明は言う」という文章のなかで、ともひろ…

思い出してみると

小田実さんの『オモニ太平記』(講談社文芸文庫、2009年、親本は1990年)です。 小田さんの「人生の同行者」のご両親のことを中心にしてかいた作品で、それを通じて、日本と朝鮮半島との関係を考えることのできる、楽しいながら、はっといろいろなことに気づ…

言い続ける

昨年も似たようなことを言ったとおもうのですが。 〈株式会社シーガル〉さんが出している、旧暦カレンダー(本体価格1500円)ですが、あいかわらず、朔が左上になっていて、曜日との関連がありません。旧暦の某日が、現在の何日で、何曜日になるかは、ぱっと…

一人称

ちょっと、『水死』の続きです。 主人公の作家が、〈長江古義人〉なのは、『取り替え子』(2000年)以来なのですが、『憂い顔の童子』(2002年)、『さようなら、私の本よ!』(2005年)と続く三部作では、客観的に、〈古義人〉と叙述されています。 いっぽ…

早生まれ

大江健三郎さんの『水死』(講談社、2009年)です。 といっても、別のところで書くかもしれないので、ここでは単純なことを。 巻末の著者紹介のところに、〈1935年1月、愛媛県生まれ〉(原文縦書き、漢数字)とあります。つまり、大江さんは、1941年に国民学…

ささやかな願い

年が明けました。今年がよい年でありますように。 安丸良夫さんの『日本の近代化と民衆思想』(平凡社ライブラリー、1999年、親本は1974年)です。 江戸時代の、一揆などの思想や、民衆のなかの考え方に、その後の日本社会につながるものを見つけようとする…