2009-04-01から1ヶ月間の記事一覧

祭日。陰。

永井荷風が、この文字を日記に書き記したのが、ちょうど50年前の4月29日です。翌朝、通ってきたお手伝いさんが、すでに絶命していた荷風を発見したのだそうです。 荷風といえば、「花火」という作品(1919年)の中で、大逆事件をきっかけに、自分は江戸の戯…

まわりまわって

この前、『プロレタリア芸術教程 第2輯』(世界社、1929年)という本を入手しました。 小林多喜二が〈文学大衆化〉について書いていたりと、けっこうおもしろいものなのですが、これを買った人は、全部読んでいないようなのです。フランス装というと大げさで…

バランス感覚

小松和彦さんの『福の神と貧乏神』(ちくま文庫、親本は1998年)です。 福の神の伝説の考察なのですが、こうした伝承には、長者が没落するという話がついてまわるのだそうです。たいていの場合、欲におぼれて、「やりすぎ」をして、結果としてマイナスを呼び…

それでも場所は

笙野頼子さんの『おはよう、水晶―おやすみ、水晶』(筑摩書房、2008年)です。 昨年末に出たものを、今ごろとりあげるというのは、少し遅すぎるようで、いささか恥ずかしいのですが、この間の笙野さんの生活と文学をめぐる状況を、エッセイ風に書いた作品と…

タイミング

死刑の判決が出ました。 あの事件が起きたのは、ちょうど与党大敗の参議院選挙の直後で、すぐに報道が、政治問題からこれ一色になってしまったのを覚えています。 それは、あたかも、その事件の9年前、やはり与党が大敗した参議院議員選挙の直後に、有明でつ…

北緯40度

岡村道雄さんの『縄文の生活誌』(講談社学術文庫日本の歴史01、2008年、親本は2000年)です。 この本は、親本が出た直後に、旧石器捏造事件が明らかになって、改訂されたもので、文庫版は改訂版にもとづいています。岡村さん自身も、自分の著作『日本列島の…

無理しなくても

「朝日ジャーナル」と題する『週刊朝日』の緊急増刊です。 浅尾大輔さんと、堀江貴文さんとの対談が載っています。浅尾さんは、「僕と堀江さんと共通しているのは、今の状況を変えたいと思っているところじゃないですか」とか、「『底上げの知恵』は出し合え…

見てわかる

加藤秀俊・前田愛『明治メディア考』(河出書房新社、2008年)です。 もともとはある石油会社のPR誌のための対談だったのですが、1980年に中央公論社から単行本が、1983年には中公文庫に収められたものの新装版で、加藤さんのあとがきがついています。 統一…

ねらいはいずこ

日曜日あたりに、「衛星打ち上げ成功」にわく人びとの映像をみていると、何か、「南京陥落」を祝うちょうちん行列に熱狂していた人たちを思い出してしまいました。 もちろん、実際には人工衛星として飛んでいないものを、「人工衛星の打ち上げに成功して、軌…

古びをつける

中国古典文学大系の『書経・易経』(赤塚忠訳、1972年)です。 『四書五経』と呼ばれて、儒学の聖典あつかいされたこれらの本ですが、実際には、後世の仮託がはいっているといわれています。 特に、書経のほうは、秦の始皇帝の弾圧によって、一度は廃滅した…

アーカイヴ

網野善彦さんの『古文書返却の旅』(中公新書、1999年)です。 1950年代、全国各地の漁業関係などの古文書を、研究のために借り出したのが、30年くらいもずっと借りっぱなしになっていたのを、返却していったという経緯を書いたものです。 返却の途上で、昔…

人のふり見て

アマルティア・セン『人間の安全保障』(東郷えりか訳、集英社新書、2006年)です。 ノーベル経済学賞といえば、破綻した理論が受賞したとかいって、ノーベルの名前がついているのに非常に評判の悪い賞ですが、この人が受賞したことは、評価していいものでし…

分け方

何か、今年生誕200年になる、ゴーゴリをめぐって、ウクライナとロシアとが、どちらの作家かということでもめているらしいのです。 ウクライナ出身で、『ディカーニカ近郊夜話』だとか、『ヴィー』だとかのような、ウクライナの地に根ざした作品を書いたとい…

教わること

うちの近所は、梨の産地なので、今頃の季節になると、あちこちの梨畑で、花盛りになっています。最近は、ひところよりも、栽培地も減っているようで、いつの間にか宅地造成がされ、そこに人が住むようになるところも増えてはいますが、まだまだ各所に、梨畑…

独自性

『津田左右吉歴史論集』(岩波文庫、2006年、文庫オリジナル編集)です。 津田左右吉といえば、高校時代、(前にも書いたかもしれませんが)神保町の岩波の店が、まだ2フロアあって、その1階がすべて岩波文庫だったころ、ある日、そこに行くと、同じ高校の同…

スローガン

かわさき文学賞の会の編集『かわさきの文学』(審美社)です。 1957年から50年間続いて、2006年で休止された、「かわさき文学賞」の、受賞作品(第41回から50回まで)と、担当した人たちの回想などで構成されています。 この賞は、手弁当のような形でずっと…

がっかり

『en-taxi』に、大澤信亮さんの宮本顕治論がのっていました。 でも、正直言って、残念に思いました。もちろん、宮本批判になっているからではありません。いわゆる「宮本−大西論争」への理解が、「やっぱりこの程度なのか」という感じだったのです。 これは…

形式をととのえる

北博昭さんの『日中開戦』(中公新書、1994年)です。 タイトルだけをみると、日中戦争がどのようにはじまっていったかを概説した本のようにも見えますが、実際は、「事変」と称されたことによって、戦時国際法の適用を受けない状態で、どのように戦争を遂行…

今に続く

『松田解子自選集 第8巻』(澤田出版、2008年)です。 この巻は、ルポルタージュに属する作品を収めています。古くは1936年の秋田県尾去沢鉱山で起きた、鉱滓流出事故の現地取材ルポもあるのですが、圧巻は、松川事件の被告を救援するための活動のなかで書か…