2015-01-01から1年間の記事一覧

なかったことか

今年の年末、NHKの地上波では、今年の大河の総集編も、前半期の朝ドラの総集編もやっていません。どちらも視聴率が悪いという評判だったので、やらないのでしょう。 大河の方は、あきらかに主役の選び方にむりがあった(世界遺産の選定にも同じような無理を…

知らないから

アレクシエーヴィチさんの『ボタン穴から見た戦争』(三浦みどり訳、群像社、2000年、原著は1985年発表)です。 ベラルーシの子どもたちが、1941年からの戦争をどう記憶しているかを著者独特のインタビューでつづったものです。 ベラルーシは、ポーランドに…

つわものどもが

水野忠夫さんの『ロシア・アヴァンギャルド』(PARCO出版、1985年)です。 このての本ではわりと早い時期になるのでしょうか、ソビエト政権がまだあったころに、西武美術館で行われた展覧会をきっかけに、本にしたようなところです。いちおう、書き下ろしと…

結局は

久生十蘭『内地へよろしく』(河出文庫)です。 1944年に書かれた作品で、単行本にならないまま現在にいたったようです。作品の時代背景は1943年の末から44年の秋にかけてと、ほぼ連載(『週刊毎日』)期間と同じです。 主人公は画家で、戦争画を描くために…

母と子

原武史さんの『「昭和天皇実録」を読む』(岩波新書)です。 先年『群像』に連載していた「皇后考」でも、貞明皇后と昭和天皇との関係がけっこう重視されていたという記憶がありますが、この本でも、昭和天皇にとって、母親との葛藤がそうとう複雑なものだっ…

敵失

池井戸潤さんの『下町ロケット2』(小学館)です。 半沢直樹もののときにも感じたのですが、悪役(というより主人公と敵対する側)が敗北するのは、今回も〈犯罪〉行為なのですね。データ偽装の結果の部品を使った患者の死去にたいして、〈業務上過失致死〉…

残す

田中琢さんの『考古学で現代を見る』(岩波現代文庫、オリジナル編集)です。 短い文章を集成したもので、考古学の専門家が、他分野の紙誌に書いたものという感じです。それだけに、よい意味での啓蒙的になっていて、考古学というものが抱えている問題点も、…

百年

12月9日は夏目漱石の百回忌にあたります。もうそれだけの年が過ぎたということではありましょう。 「夢十夜」でも、〈百年〉はキーワードになっていますけれど、漱石自身はこんな100年後を想定したのでしょうか。

誰に読ませる

スージー鈴木さんの『1979年の歌謡曲』(彩流社)です。 文字通り、1979年に発売された歌謡曲をたどりながら、その音楽的な意味をさぐるというもので、著者は、ゴダイゴを、とくにミッキー吉野の仕事をきちんと評価しようという立場にたって、当時の曲を聴き…

筋をとおして

坂井実三さんの『枇杷の花の咲くころに』(民主文学館)です。 1990年代からの作品をあつめた短編集ですが、長崎を舞台にした少年を主人公にした作品と、企業のなかで良心をつらぬこうとした主人公が老境を迎え、新しい情勢のもとで踏み出そうとする作品とが…

運がいいだけ

アレクシエーヴィチ『チェルノブイリの祈り』(松本妙子訳、岩波現代文庫、2011年、親本は1998年、原著は1997年)です。 今年のノーベル賞を受賞した方で、この本のような当事者からの聞き書きを主な活動の場としています。チェルノブイリから10年という月日…

亡くなる方ばかり

北の湖理事長が亡くなったし、原節子さんも逝去。今月の『相撲』誌は決算号にもかかわらず、優勝した日馬富士ではなく、北の湖の土俵入りを表紙にもってきました。ある意味、モンゴル勢に対しての、読者の意見を暗示したものなのかもしれません。 原節子さん…

何でもあり

平岡昭利さんの『アホウドリを追った日本人』(岩波新書)です。 19世紀末から20世紀はじめにかけて、太平洋上の島でアホウドリを捕まえて大儲けをした人たちの姿を描いたドキュメントです。アホウドリは捕獲が簡単で、人間を恐れなかったので、大量に捕…

ちょっと見ると

そういえば、古田武彦さんが亡くなっていたのですね。 『「邪馬台国」はなかった』(朝日新聞社、1971年)を読んだのはずいぶんとむかしのことで、論理の展開におもしろさを感じたことは事実です。そのあとの、『失われた九州王朝』(朝日新聞社、1973年)も…

さかのぼる

『氾勝之書』(岡島秀夫、志田容子訳、農文協、1986年)です。 もともとの本は、前漢末の人、氾勝之の書いたとされる農書の『氾勝之書』を、『斉民要術』などに引用される佚文から復元して、石声漢という方が1958年に原文と英語訳とを刊行したものを、翻訳し…

結末

二葉亭全集から。「くち葉集」と名づけられた雑記帳です。「浮雲」の構想メモがはいっていることで有名でもあり、この全集でも、そこだけカラー写真で復刻されています。(もちろん、活字での翻刻もあります) 現在の「浮雲」のあと、文三がますます居場所を…

虚を実に

辻田真佐憲さんの『たのしいプロパガンダ』(イースト新書Q)です。 20世紀の歴史を振り返って、権力による宣伝がどのようになされていったのかを、いろいろな国の例をあげています。新書という立場ですから、わかりやすいものが選ばれていて、現在の北朝鮮…

構想

二葉亭全集の〈評論・感想〉の巻です。 「茶筅髪」は未発表の原稿だとこの前書きましたが、二葉亭はこの作品の構想を文字にして語っているのですね。「未亡人と人道問題」という談話筆記でしょうか、『女学世界』という雑誌に載ったようです。 そこでは、主…

設定変え

二葉亭全集から『平凡』です。1907年に新聞連載され、翌年単行本になったようです。 この作品は、一時期小説家として名を売った39歳の主人公が、自分の半生を反省したという設定です。志を抱いて上京したはずの主人公が、住みこんだ伯父の家で書生として使わ…

信仰

二葉亭全集から「茶筅髪」です。 没後発見された未完の稿本なのですが、日露戦争で夫を亡くした女性の再生を描こうとしたもののようです。夫を亡くした女性のもとに、学校時代の友人が訪れます。彼女は幼子を育てようとする主人公に共感し、夫にはたらきかけ…

模索

岩波版の新書判『二葉亭四迷全集』(全9巻、1964年から65年)がそろいで手に入ったので、ひさしぶりに「浮雲」を読んでみました。リストラされてひきこもる、という文三の姿は、決して全面肯定されているわけではないという、最近の動向も踏まえたうえでのこ…

6年おき

今年のノーベル賞は、ベラルーシの女性作家だそうです。ロシア語圏からの受賞者は、ブロツキー以来ですから、ひょっとするとソ連崩壊以降はじめてかもしれません。 今年も村上春樹受賞を願って、あちこちでイベントがあったようですが、村上さんの是非はおい…

たたきこむ

大江志乃夫『国民教育と軍隊』(新日本出版社、1974年)です。 明治期の学校教育と社会教育に関して、いかに軍が関与し、兵隊になることを所与のものとして社会全体に受け入れさせるのかを考えていたか、ということを、原典の史料にさかのぼって追求した論考…

くいちがい

野口冨士男『風のない日々』(文藝春秋、1981年)です。1980年に『文学界』に連載された長編で、1930年代半ばの東京を舞台にして、ある銀行員がふとした行き違いで妻をひどい目にあわせるという話です。彼は、最初の結婚が壊れた後、義兄を通じて持ちこまれ…

地方のこころ

大地進さんの『黎明の群像』(秋田魁新報社、2002年)です。 著者は「秋田魁新報」の記者で、新聞に連載したものをまとめたものです。 1920年代はじめに、秋田出身の小牧近江、金子洋文、今野賢三らを中心にして発行された雑誌『種蒔く人』の姿と、この3人の…

素朴

今日は正岡子規の命日だそうです。子規といえば、日清戦争に記者として従軍したことが知られていると思いますが、そのときに、〈無邪気〉な対応をしていたと聞いています。 日清戦争のときに、きちんとなぜ戦争を始めたのかを総括していれば、その後の日本人…

勝ちたい

総理の談話がでて、支持率があがったという調査もあるようですが、よくよく考えると、あれは「日露戦争勝利110年記念」の談話ですね。いくら『負け戦』を認めたくないという気持ちはあっても、やってはいけないことをしたようにも思うのですが。 1か月遅れの…

転換期

松田解子『あすを孕むおんなたち』(新日本出版社、1992年)です。 作者の晩年の作品で、『新婦人しんぶん』に連載されたようです。1945年5月から約一年間の、作者の周囲をモデルにした作品で、敗戦濃厚となった時期から、女性も選挙権がもてるようになった…

亡命

佐藤静夫『トーマス・マン』(新日本新書、1991年)と、長橋芙美子『アルノルト・ツヴァイク』(近代文芸社、1995年)です。 ここで取り上げられた二人の作家は、いずれもドイツから亡命した人たちです。片方はアメリカに、もう一人はイギリス委任統治領のパ…

タイミング

郭沫若『李白と杜甫』(講談社文庫、1976年)です。 文革時代の著作なので、李白をもちあげ杜甫を落とすという、いかにも的な作品です。個々の読みそのものには問題はないのでしょうが、少し意図が透けすぎではという感じもします。 この本、1971年に原著が…