2008-04-01から1ヶ月間の記事一覧

生き残ったは

獅子文六『海軍』(中公文庫、2001年、底本は1968年、初出は1942年)です。 真珠湾攻撃のときの特殊潜航艇の乗組員を主人公にして、彼の少年時代から海軍にはいって、戦いに赴くまでのできごとを書いています。 小説のできばえは、たしかに上手なものといっ…

「不肖」の息子

田村光雄さんの、『化粧する男』(民主文学館、光陽出版社発売)です。 いくつかの短編をあつめた作品集なのですが、表題作は、派遣労働の息子が、元日に仕事をいれていたのが事故で出勤できなくなって、リストラされてやはり派遣勤務をしている父親が、身代…

切り口

『Modanizumu』(入力ミスではありません)という本の話です。 といっても、手元にはありません。手にとって、みせてもらったものなのです。失敗したことに、ISBNコードもメモしてこなかったので、書誌情報もはっきりとは覚えていないのですが、ハワイ大のプ…

迫ってくる

『燃えあがるスペイン』(吉永瑠美・梶知子訳、東邦出版社、1969年)です。 スペインの「内戦」を経験した、外国人の作家やジャーナリストの文章を集めて、共和国崩壊のプロセスを追っています。なかでも、空爆直後のゲルニカのルポは、当時のなまなましさと…

実見してこそ

林文雄『荻原守衛』(新日本出版社、1970年)です。 絵画や彫刻などの美術系、とくに近代日本のそれはあまり詳しくないので、(まあ、なかなか時間をとれないということもあります。文学は持ち運びもできるし、自分の好きな時間にひっぱり出せるというのは、…

表と裏

鹿児島の南方新社というところから出た、『奄美の人と文学』です。 この本はおもしろいつくりで、前半は奄美出身の詩人、茂山忠茂さんが書いた小説4編、後半は参議院議員を引退してから鹿児島に住んでいる秋元有子さんの評論4編、となっています。ですから、…

同情するなら

赤木智弘さんの『若者を見殺しにする国』(双風舎、2007年)です。 「希望は戦争」ということばで、一躍時の人になった彼ですが、その文章なども含めたものです。彼がいかにしてそうした言説をするに至ったかが、よくわかります。 もちろん、彼の言い分は、…

体質

草鹿外吉『灰色の海』(新日本出版社、1982年)です。 著者は、海軍軍人の家に生まれ、自らも1945年に海軍兵学校に入学しました。そのときの体験をもとに書いた小説で、作品の舞台は1945年5月から8月までの時間です。 主人公は、親の影響で海軍にあこがれ、…

苛立ちと開き直り

保田與重郎『長谷寺・山ノ辺の道・京あない・奈良てびき』(新学社保田與重郎文庫、2001年)です。親本は、「長谷寺」は1965年、「山ノ辺の道」は1973年、あとのふたつは執筆は1962年、単行本未収録のようです。 ちょうど、保田が「復活」といわれ始めたころ…

もどかしい

アメリカの言語学者、サピアの著書、『言語』(安藤貞雄訳、岩波文庫、1998年、原著は1921年)です。 サ氏はアメリカ先住民の言語の研究によって、言語とは何かという枠組みについていろいろと考えた結果を、この本にこめたようです。 実際、世界中の言語を…

抽象性

加藤周一対話集の6冊目、『憲法・古典・言葉』(かもがわ出版)です。 憲法をめぐって、ドイツにおけるナチスは異分子だったが、日本の戦争遂行勢力は決して異端ではなかったという指摘も大事なことだと思いましたが、高畑勲さんとの対談で、日本のアニメー…

突出

浜忠雄さんの『ハイチの栄光と苦難』(刀水書房、2007年)です。 ハイチはカリブ海の島国で、フランス領だったのが、1804年に独立を宣言した国です。しかし、その後は、苦しい歴史が続き、現在では貧困国のひとつになっています。 前に、ハイチについては、…

遠い人だったけど

小川国夫さん、死去。 実際、ほとんど読んだことはなかったのだけど、それは、彼の作品には、どうしても静岡県という風土が強くしみこんでいて、そこを感覚として認識しきれなかったことがあったのではなかったかと、今になって思います。遠いといえば、「本…

シュミレーション

日暮吉延さんの『東京裁判』(講談社現代新書)、雨宮昭一さんの『占領と改革』(岩波新書)と、占領時代をテーマにしたものを続けました。 過去の「思いこみ」にしばられずに、状況を事実に基づいて見極めようという姿勢から、どちらも書かれているようです…

つながりの深さ

護雅夫さんの『李陵』(中公文庫、1992年、親本は1974年)です。 漢の時代、匈奴の捕虜となり、匈奴に仕えることになった李陵の足跡を追いながら、匈奴世界の漢人のありようをさぐっていきます。 そこで描かれるのは、匈奴に仕えた漢人は決して李陵だけでは…

くるりくるりと

岩上順一(1907-1958)の『変革期の文学』(三一書房、1959年)です。 著者は、戦時中から文芸評論を書き始め、『横光利一』などの著書をもっていました。戦後は、新日本文学会の初代の書記長をつとめ、会創立当初の事務局的活動を地道に行っていました。し…

わたぬき

とはいtっても、まだ旧暦は如月ですから、〈わたぬき〉を着るには少し寒い。 前に、浅尾大輔さんのブログで、エープリルフールネタがあったのを、まじめに受け止めてコメントを書いて、恥をかいたことがあったので、きょうは、ネットにはつなぎません。(追…