誇りということ

なかむらみのるさんの『恩田の人々』(新日本出版社、1989年)です。
なかむらさんは、長い間郵便の労働者として働いてきたかたで、労働運動のかたわら小説を書いて、この作品で1988年に日本共産党の65周年記念文芸作品の長編小説部門で入選しました。
この作品は、東京の恩田郵便局で、当時の主流派組合が、1968年の参議院選挙のときに、社会党候補を応援しなかった組合員を排除したところからはじまります。組合の言い分は、「決定に従わないのは分裂主義者だ」ということで、社会党を組合として支援することの是非は問わずに、それに従わない人たちを排除するのです。それに対して、政党支持の自由をうたい、労働者を分断することに反対してたたかう人たちを作品は描きます。しかし、結局、主流派組合はその人たちを排除し続け、結果的にその人たちは新しい組合、郵産労を結成して、労働者のための組合をつくってたたかっていくのです。
そこに至るさまざまな人たちの生き方や、その中の苦労などを描いて、そこそこに仕上がっています。ただ、たたかう労働者の群像を描くことに急で、その人たちがなぜたたかえるのかを、郵便の労働の実態とあわせて追求するには、この段階の作者は少し荷が重すぎたのかもしれません。それは、その後の『手紙物語』で追求されることになります。けれども、この作品でも、たたかうことに存在する、人間としての誇りは描かれているのだと思います。