矜持をたもつ

『民主文学』1月号の巻頭作品は、三宅陽介さんの「ある幕末騒動記余聞」です。岡山の郷土史家を主人公にして、彼にまつわる話題を書いています。その中の中心的な話は、『梟の城』という作品で直木賞を受賞したある有名な時代小説家との主人公のかかわりです。郷土史家の書いた倉敷をめぐる本から、その小説家が、自分の作品を作ったというのです。高名な小説家が、剽窃まがいのことをしたという告発作品かと思ったら、その作品をめぐってかえって郷土史家と小説家との間で、何回かのやりとりがあり、それが予想外の方向に発展していくのです。それを通して、その郷土史家の生き方が描かれていくのです。
今は両者とも故人となったようで、作者の三宅さんは、郷土史家の葬儀の際に、テーマパーク建設をめぐって対立していた県知事から弔電がとどいたという記述をしています。その県知事だった人も、昨日だかおとといだかに亡くなったようです。たしか、一期くらいは革新県政だったような気もおぼろにするのですが。
ただ、その小説家の名前を、作中では仮名にしています。受賞作品を実名にしていては、同じのような気もしますが、作品の中の仮名実名の問題は、難しいものがありますね。