2012-06-01から1ヶ月間の記事一覧

「敗北」はない

鷲巣力さんの『加藤周一を読む』(岩波書店、2011年)です。 平凡社版の『加藤周一著作集』や岩波版の『加藤周一自選集』の編集にたずさわった著者による、加藤周一の著作と生涯を追ったものです。著作だけではうかがい知れない事実も出てきて、それはそれで…

綱引きふたたび

最近、岩波の『図書』がおもしろくなっています。 7月号でも、赤川次郎さんが、浜岡原発を停めると言う決定をした直後から、「その瞬間から、新聞、TVの大手マスコミを総動員しての「菅おろし」がスタートした」と、きびしく指摘しています。ちなみに、総動…

知ること

『アインシュタイン論文選』(ちくま学芸文庫、2011年、青木薫訳、原本は2005年)です。 正直言って、論文そのものはちんぷんかんぷんなのですが、ここから20世紀の物理学が始まり、今回の福島第一の事故へとつながっていくのかと考えると、知らないでいいと…

どこにでも

『歴史の町なみ 近畿篇』(保存修景計画研究会編、NHKブックスカラー版、1982年)です。 京都府を除いた近畿1府5県(三重県も含めています)の、さまざまな歴史的景観を、短く紹介したものです。もちろん、畝傍の今井町や、伊賀上野、但馬の出石とか、有名ど…

ことばの壁

センベーヌ『帝国の最後の男』(片岡幸彦訳、新評論、1988年、原著は1981年)です。 著者はセネガルの人で、この作品もセネガルで大統領が失踪した後の政治の混乱を描いた小説です。あくまでもフィクションで、実際の政治過程とは無関係ですが、地名などは実…

復讐

山田風太郎『戦中派焼け跡日記』(小学館文庫、2011年、親本は2002年)です。 著者の日記が文庫で読めるのは、とりあえずここまでですので、『虫けら』『不戦』とつづいた3部作のような形になります。 医学生である著者は、敗戦という現実の中で、過去の残滓…

自力で

『中野重治書簡集』(平凡社)です。 中野の生涯を考えると、もっと手紙はあったでしょうが、とりあえず、夫人の原泉さんが呼びかけて集まった1000通あまりの中から選ばれたものです。 選ばなかった手紙も、宛名と日付ぐらいは記録に残してほしかったと以前…

ふたたび大本営

山田風太郎『戦中派不戦日記』(講談社文庫、1985年、親本は1973年)です。 これは1945年の日記ですから、戦争中から終戦直後までの山田青年の考えと、当時の社会が描かれます。山田青年は東京医専の学生として、学校ごと長野県の飯田市に疎開し、そこで玉音…

思い入れ

『かくして冥王星は降格された』(ニール・ドグラース・タイソン著、吉田三知世訳、早川書房、2009年、原本は2009年)です。 冥王星が準惑星になるまでのプロセスを、ニューヨークのプラネタリウム運営のエピソードとあわせて書いた、科学よみものです。 と…

綱引き

高橋哲哉さんの『犠牲のシステム 福島・沖縄』(集英社新書)です。 原子力発電も、米軍基地も、だれかを〈犠牲〉にして、その上に〈繁栄〉を築き上げてきた構造ではないかと、高橋さんは指摘します。その上で、「だれにも犠牲を引き受ける覚悟がなく、だれ…

大本営発表

山田風太郎『戦中派虫けら日記』(ちくま文庫、1998年、親本は1973年)です。 1922年うまれの山田青年の、1942年から44年までの日記です。彼は1942年に上京し、田町の沖電気に勤めながら、医学の学校をめざします。1943年の入試には失敗し、1944年の3月には…

投機

長谷川亮一さんの『地図から消えた島々』(吉川弘文館、歴史文化ライブラリー、2011年)です。 太平洋上の島の位置を確定していく中で、存疑とされる島と、その周辺をめぐる開拓者たちの物語です。 明治になって、〈南進〉がはかれらるようになる中で、アホ…

旅愁

『西洋見聞集』(日本思想大系の中、岩波書店、1974年)からです。 基本的に、幕府の派遣した使節の記録や報告書を収録したものですが、そのなかに、柴田剛中の日記があります。かれが、1865年に、横須賀に製鉄所をつくるための交渉に、フランスとイギリスに…

スタートライン

大橋喜一さんが亡くなられたと聞きました。 戦後まもなく、さまざまな職場で、労働者の文化サークルがはじまりました。その中から、技量をあげて、専門的に文化創造にかかわっていく人たちも現われました。文学の世界では、小沢清さんとか、熱田五郎さんとか…