2012-09-01から1ヶ月間の記事一覧

愛着

宮崎市定『中国史の名君と宰相』(中公文庫オリジナル編集、2011年)です。 全集にもれた事典の記述を中心に、いろいろな論文を集めています。 礪波護さんが解説を書いているのですが、その中で、ある学会のとき、ある研究者が太平天国論をもとに、中国史の…

縛り

杉浦明平『戦国乱世の文学』(岩波新書、1965年)です。 いわゆる中世から近世初期の作品をとりあげ、古い価値観や美意識に支配されている作品だと論証することが主になっています。 もちろん、当時の文学作品が平安時代の価値観を是とする意識に貫かれてい…

孫たち

神崎清『実録 幸徳秋水』(読売新聞社、1971年)です。 著者の長年の研究をもとにした評伝といってよいでしょう。秋水の伝記として、よみごたえがあります。〈事件〉がどのように作られていったのかということも、ていねいに論じていて、帝国憲法のもとでも…

あわせもつ

昨日書くべきだったでしょうが、きのうは河上徹太郎の33回忌にあたる日だったそうです。 河上といえば、日中戦争のときに石川淳の「マルスの歌」を『文学界』に載せて、発禁処分を受けて、発行側として罰金を受けたことがある人です。戦後最初には〈配給され…

そもそも

金賛汀さんの『関釜連絡船』(朝日選書、1988年)です。 植民地支配時代の朝鮮半島について、基本的なことをおさえないわけにはいきません。インフラの整備は誰のために行われたのか(たとえば、連絡船が運航される前の釜山港は、はしけで陸とやりとりをして…

たまには

島村利正『奈良登大路町・妙高の秋』(講談社文芸文庫、2004年、文庫版新編集)です。 瀧井孝作を介して志賀直哉に学んだ著者の、好短篇を集めたものです。著者の故郷の、信州高遠を舞台にした「仙酔島」は、高遠に鰹節を売りにくる男が頓死して、葬儀をだし…

手仕事

『米欧回覧実記』の2冊目(岩波文庫、1978年)です。 使節団のイギリス滞在の部分なのですが、当時の産業革命をリードした大英帝国のことですから、使節団は各地の工場を見学します。製鉄所、ガラス工場、陶磁器の製作所、さらにはビスケット工場と、さまざ…

踏み絵

金石範さんの『過去からの行進』(全2冊、岩波書店)です。 1991年を舞台に、かつて1984年に〈南山〉(KCIA)によってとらえられ「作家〈金一潭〉によって自分は反韓国の活動家になった」というデッチアゲの〈反省文〉を書かされた男が、その作家に〈韓国入…

本流

『戦後史のなかの国鉄労使』(升田嘉夫、明石書店、2011年)です。 著者は当局側のひとなのですが、そういう点から、特定の労組に偏らずに、戦後の国鉄の労働運動史をみようと試みています。ですから、その点では、国労の動きも、動労の動きも、わりあい公平…

急ぎ足

日本近代文学大系の『近代評論集1』(角川書店、1972年)です。 明治期の主だった評論で、個人集にはいらないものを収録しているのですが、石橋忍月と森鴎外が、「舞姫」をめぐってお互いの小説の登場人物の名前でやりとりをしていた時期から20年で、自然主…

変なきっかけ

広島で起きた女児連れ去り未遂事件で、ついつい、1989年の有明での連れ去り未遂事件からどんどん〈発展〉していって、最終的には被告が死刑に処せられた事件のことを思い出してしまいました。 あのときは、すべての話題がそっちのほうにいってしまって、政治…

それをいうなら

宇野常寛・濱野智史の両者の対話『希望論』(NHKブックス)です。 かれらは、現代の日本社会を『拡張現実の時代』ととらえ、新しいコミュニティの可能性を語ります。それは、リーダーがいなくても回る社会であり、非正規雇用でも結婚して子どもを育てられる…

力のいれかた

山田美妙『いちご姫・蝴蝶』(岩波文庫、2011年)です。 長編「いちご姫」(1889年から1890年にかけて雑誌連載)が読みどころということなのでしょう。大きく言えば〈毒婦〉もののつづきものに対して、文学作品として対置しようと作者が試みたものだといえる…

上から

宮本常一『山に生きる人びと』(河出文庫、2011年、親本は1964年)です。 山の生活は、下界から上がってきた人びとが水田耕作にこだわるのとは違い、焼畑や狩猟、木器つくり、砂鉄の生産などにたずさわる、別の生活を送っていたのだということを論じています…