題材と意匠

青来有一さんの『爆心』(文藝春秋)です。
長崎に住む青来さんが、長崎に生きる人々を題材にして書いた作品です。収録された作品には、何かしら原爆の影が潜んでいます。もちろん、それは主人公が直接被爆者であるというわけではありません。というよりも、被爆と関連づけているのか、キリスト教の問題が大きく迫っています。原爆よりも、信仰と性愛との関係を書きたかったのでしょうか。どの作品にも、婚姻とは別の性愛が描かれます。そのへんの感情には、婚姻外の性愛を当然のものとして、是非の判断を意図的に停止している作者の姿がみえてくるのです。
そこに、ひそかな欲望があるのでしょうか。かつてソビエトロシアが、小説「赤い恋」で描かれたといわれる、性愛をモラルから切り離す姿を具現していると日本で話題になったことがありましたが、そこにも、そうした状況を理想として思い描く人物が日本には実は多くて、そうした潜在的な欲求が、外国の事情を自分につごうのよいようにねじまげて解釈する傾向と結びついたもののような感じがします。
そうした願望を書くのが小説家だとしたら、こちらには小説家になる才能はなさそうです。