2008-03-01から1ヶ月間の記事一覧

小春日和

芳賀徹さんの『與謝蕪村の小さな世界』(中公文庫、1988年、親本は1986年)です。 蕪村の作品や若冲の絵などを通して、18世紀の上方文化の、穏やかな生活のありどころを考えようとしています。17世紀が戦乱の記憶を抱いた時代(前にも、『おあむ物語』などで…

証言

『対談 日本の文学』(中央公論社、1971年)です。 中央公論社が、1965年あたりから、「日本の文学」という、近代文学全集を全80冊で刊行したのですが、その月報で、関係者の対談(場合によっては鼎談)を企画したのです。それを1冊に集成したのが、この本な…

たまには思い出

駒田信二さんの『遠景と近景』(勁草書房、1983年)です。 駒田さんの名前は、『水滸伝』百二十回本の翻訳(平凡社)でなじみだったので、大学にはいったとき、教養課程の授業で、(人文・社会・自然の各分野で最低1科目はとらなければならなかったのです)…

ていねいにみる

フランスのサルコジさんが、中国当局に対話を促すメッセージを発信したというニュースをテレビでみていたのですが、「中国とチベット」という字幕が出ていました。 サルコジさんが、直訳したときにそういうふうになる発言だったのかはよくわからないので、憶…

異国にて

一ノ瀬俊也さんの『旅順と南京』(文春新書、2007年)です。 日清戦争のときの、兵士と軍夫との日記を読みながら、そこに書かれた日清戦争の事実を追求しています。当時は、旅順攻略戦のとき、民間人を殺害する事件がおきたのですが、それにいたるプロセスを…

発想の底

パステルナーク『ドクトル・ジバゴ』(江川卓訳、新潮文庫、1989年、翻訳底本は1988年に雑誌『ノーヴィ・ミール』掲載のもの、最初の出版は1957年、イタリア・ミラノにて)です。 いまさらと思われるかもしれませんが、ソビエト政権もなくなって20年近くたっ…

一日玄米四合ト

宮沢賢治の話ではなくて、『すばる』4月号の原田ひ香さんの「ナチュラルママ!」です。夫が北海道のある市の市役所にヘッドハンティングされ、一家で移住することになった主婦の視点から、北海道のまちでの日々を描いた作品です。妻は、小さなこどもを抱えて…

使いみち

『新潮』4月号に、小野正嗣さんの「マイクロバス」という作品があります。作品自体の話ではないのですが。 この作品は、国道388号線沿いの、海岸に面したちいさなむらが舞台です。そこに生きる、不器用な若者が主人公で、さびれたむらのイメージを描いた作品…

撃墜

どこの新聞かは忘れましたが、サン=テグジュペリの乗った飛行機を撃墜したドイツ軍のパイロットが名乗り出たという記事をみました。 子どものころに、『星の王子さま』(岩波書店)を読んだときに、作者の略歴として、「飛行機に乗って偵察中に行方不明」と…

歩留まり

池澤夏樹個人編集『世界文学全集』の話です。 いまのところ4冊目のデュラスとサガンの巻まで出ていて、今までは、読んだことのない作品ばかりだったのですが、今回は、サガンの「悲しみよ こんにちは」はずっと昔に読んだことがあるので、再読ということにな…

裏を返せば

いわゆる『ロス疑惑』が世間を騒がせていますが、彼が真犯人かどうかは、かつて島田荘司さんの『三浦和義事件』(角川書店、1997年)を読んだときに、いろいろとありえるのだと思いましたが、今回の騒動は、こういうことでもあるのではないでしょうか。〈A…

国際的

『武満徹対談選』(ちくま学芸文庫)です。 音楽の世界は暗いので、素人めいた感想でしかありませんし、武満さんの作品もよく知らないのですが、そういう予備知識がなくても、楽しく読めます。 文学の世界は、もっていることばによる表現なので、(とはいっても…

もう一つの秩序

ついつい、一気に読んでしまったのですが、軍司貞則さんの『高校野球「裏」ビジネス』(ちくま新書)です。 軍司さんは、社会人野球のクラブチームも運営していて、実際に野球の世界にもかかわっているということもあって、関係者に取材をしながら、少年野球(…

共通感覚

昨夜は少し激してしまいましたが、もともと書きたかったのは、奥村恒哉(1927-1991)の『歌枕考』(筑摩書房、1995年)だったのです。 著者には、以前『歌枕』(平凡社選書、1977年)があり、この本はその後の論考などをあつめたものです。 歌枕というのは、…

ごまめの歯ぎしりでしょうが

佐高信さんの『サンデー毎日』(2008年3月16日号)の文章です。 彼は、今年小林多喜二の墓前祭に行って、「共産党臭が鼻について」、途中で引き揚げたそうです。かれがそういう行動をとるのは彼の信条なのでしょうが、彼は今まで多喜二について、何か守る行…

展開

高階秀爾さんの『ピカソ 剽窃の論理』(美術公論社、1983年)です。 ピカソの絵には、そのモチーフとなった先人の絵があり、それを発想の軸としながら、独自の世界を築いているというのが、著者の発見です。 たかしに、朝鮮戦争のときに描かれた、「朝鮮の虐…

ほったらかし

日曜夜のNHKで、中国の現状が放映されていました。 上海の学生が、地方に教師として出向いていくというプロジェクトがあるようで、いわゆる「お嬢様」として育った女子学生が、寧夏回族自治区へでかけ、そこの学校で英語を教えるというのです。 今の中国の、…

奪う

金時鐘訳『再訳 朝鮮詩集』(岩波書店、2007年)です。 もともとは、1940年に金素雲さんが翻訳して刊行し、1954年に岩波文庫に収められた『朝鮮詩集』に収録された作品を、金時鐘さんが改めて原詩から訳しなおしたものです。そういういきさつもあって、上下2…