混沌の果ては

フローベールブヴァールとペキュシェ』(鈴木健郎訳、岩波文庫)です。作者の最晩年の作品で、未完成のまま亡くなったということです。
プヴァールという男と、ペキュシェという男がパリで偶然知り合い、片方に遺産がはいったので、仕事をやめてふたりで田舎で生活をするようになります。ところが、そこで、彼らは、いろいろなことに興味をもち、生兵法で手をつけ、ことごとく失敗していくのです。缶詰づくり、ワイン醸造、考古学、歴史小説、交霊術、民間療法、神学などなど。
最初は、二人の農村生活をリアルに描いた作品かと思って、構えて読み始めたのですが、途中でこれは二人を笑いのめすものだとわかって、ある意味気が楽になりました。作者は、二人を通じて、なま悟りの俗物根性を風刺しようとしたのでしょう。
時代はちょうど19世紀の中ごろで、1848年の2月革命からルイ・ボナパルトの政権掌握にいたる、マルクスが『フランスにおける階級闘争』や、『ルイ・ボナパルトブリュメール十八日』で描いた時代でもあります。当時の農村が変革をどのように受け止めたかがわかって、魯迅の『阿Q正伝』を思わせるような場面もありました。
そうした、概説書を盲信して、中途半端に試みる人たちは、いまでもどこぞにいそうな感じはします。