2010-07-01から1ヶ月間の記事一覧

言いっぱなし

『図書』8月号の復本一郎さんの文章で、正岡子規が中江兆民の『一年有半』を批判していて、それは兆民が短歌や俳句をその中でコケにしていたからだろうという部分がありました。 たしかに、『一年有半』には、けっこう無責任な発言もあって、当時の相撲に関…

イメージの固定

鈴木淳さんの『維新の構想と展開』(講談社学術文庫日本の歴史20、親本は2002年)です。 帝国憲法までの時代を、維新構想の国民的合意形成という側面からとらえたもので、民権派にとっても、憲法がある程度の合意できるものであったことを、地方制度とのかか…

虚業の基盤

岡村民夫さんの『イーハトーブ温泉学』(みすず書房、2008年)です。 宮沢賢治と、花巻近郊の温泉開発とのかかわりを探求したもので、地元の名家としての宮沢一族と、業界とのつながりが興味をひきます。 1920年代、花巻郊外に開かれた花巻温泉は、家族連れ…

よりどころ

樋口浩造さんの『「江戸」の批判的系譜学』(ぺりかん社、2009年)です。 江戸時代のテキストを、時代とかかわるものとして取り上げてみようという観点から、当時のナショナリズムのありようについて考察したものです。 その中で、日本でも朝鮮でも、「泰伯…

あったもの

原武史さんの『沿線風景』(講談社)です。 まえに、原さんと重松清さんの対談をここであつかったときも、『滝山コミューン一九七四』のときも、感じたのですが、原さんは、きちんとあったことを記録しておこうとする方のようです。 というのも、一般的な戦…

くふう

兵頭勉さんの『火を継ぐもの』(日本民主主義文学会弘前支部、2009年)です。 兵頭さんは、弘前支部で長く活躍されている方で、この本は、1969年から2008年までの間に弘前で行われた小林多喜二を記念する催しで、兵頭さんが行った講演を『弘前民主文学』誌に…

いろいろな場所で

南元子さん(1934-2009)の、『夢、そのとき』(本の泉社)です。 南さんは長く民主主義文学会の奈良支部で活動されてきた方で、昨年なくなられたあと、支部のかたがたが中心となって、『民主文学』や奈良支部の支部誌に発表した作品から選んで本にまとめた…

ともかく紹介

思わず衝動買いしてしまったのですが、交通新聞社から、『復刻版 昭和43年10月貨物時刻表』が出ました。 今は年1回出ているのですが、説明によるとこのとき新しくつくられたような感じです。 この1968年10月のダイヤ改正は、けっこう全国的な大がかりなもの…

年齢

中上健次の『枯木灘』(河出書房新社、1977年)です。 ぐちゃぐちゃした人間関係に閉口しながらも、そのしがらみの中で生きようとしておきる悲劇は、それとして感じることができるのですが、主人公の秋幸が26歳で、周囲に対して十分なおとなとして振る舞おう…

荒れ

井上ひさしさんの単行本未収録だった作品『一週間』(新潮社、初出は2000年から2006年にかけて断続的に『小説新潮』誌に掲載)です。 シベリア抑留中の元非合法活動家だった小松という人物が、ふとしたきっかけからレーニンの手紙なるものを入手します。そこ…

論理をまわす

選挙が終わりました。 非拘束式比例代表というのは、けっこう酷な制度で、この地域の重点候補が当選しても、すなおに喜べません。もちろん、結果としてたくさん議席がとれるほど得票があればいいのですが。さて、高校時代に、数学で、論理学的なものを習いま…

内容の選択

大木康さんの『中国明末のメディア革命』(刀水書房、2009年)です。 大木さんは前にも書いたかもしれませんが、私の中学高校の2学年上級の方で、たしか文化祭のときに、〈漢詩のつくりかた〉のような本を読んでいたような記憶がおぼろにあります(ちがって…

せっかくなのに

『群像』とイギリスの文芸誌『GRANTA』とが共同で、お互いの雑誌に作品を掲載するという企画を始めました。この8月号が第1回で、イギリス側はナイジェリアの作家、アディーチェの「シーリング」、日本側は桐野夏生「山羊の目は空を青く映すか」です。 でも、…

期待

『民主文学』8月号の松木新さんの文芸時評で、びっくりしたことがあります。それは、浅尾大輔さんの「ストラグル」が〈前編終わり〉とあるのに実は完結した作品だったということが明らかにされていることです。松木さんが浅尾さんに確かめた結果だというので…

一面化

大仏次郎『帰郷』(旺文社文庫、1966年、初出は1948年、『毎日新聞』連載)です。著者の姓ですが、新字体で書きますのでご了解を。 海軍軍人の守屋恭吾は、公金費消の容疑で海軍をやめ、外国に出て行ったのですが、戦時中にマラッカの華僑の社会のなかにまぎ…

線引き

丹野章さんの『撮る自由』(本の泉社、2009年)です。 写真家の丹野さんが、自分の経験から、写真を撮るということについて考察しています。写真は一瞬を切り取るものですから、撮られる側とのトラブルもおきやすいものです。そこで、丹野さんは、〈撮影〉と…

そろりそろり

福井健策さんの『著作権の世紀』(集英社新書)です。 こうして、文章を発信しているわけですから、著作権についての勉強は欠かせません。本の紹介にも、画像を使わないのも、カバーイラストや装丁に対しての、何か言われたらよろしくないという意識が働いて…