2013-08-01から1ヶ月間の記事一覧

新たな視点

佐多稲子に『重き流れに』(講談社、1970年)という作品があります。その後講談社文庫(全2冊、1976年)に収められました。 満洲ハルビンに赴任したある日本人家族をモデルにして、植民地時代の日本が何をしたのかということと、夫婦の関係とは何かを問いか…

環境を生かす

「風立ちぬ」をもう少し。 戦前の社会には、格差があったことはいうまでもありません。軽井沢で避暑ができる里見家のありようは、恵まれたものであることはすぐにわかります。二郎の実家にしても、二郎が大学に行け、妹が医者になれるだけのゆとりがあるので…

仕事を選ぶ

映画『風立ちぬ』から少し。 主人公の二郎は、飛行機乗りにはなれません。最初の夢の中で、近眼の自分には無理だという趣旨のことをいっています。けれども、当時の日本では、飛行機に関する需要は軍事しかありませんから、二郎自身が空を飛ぶ場面は、赤城か…

また訃報

森浩一さんにつづいて、谷川健一さんも亡くなられたとか。 日本の文化を、残っている民俗や地名などによって考えようとした方ですから、考古学の森さんと、相補うような感覚でいたのですが、お二方とも鬼籍に入られたとは、時代の変わり目ともなるのでしょう…

どっちを向く

原太郎『花伝書考』(未来社、1983年)です。 世阿弥の『花伝書』(風姿花伝)を。わらび座で講義したときのものをまとめたのだそうです。 観世の猿楽能が、民衆の生活の中から出てきたものであって、それが将軍や公卿のような上層階級の鑑賞に堪えうるもの…

へだたり

岩波文庫の『日本近代短篇小説選』(全6冊、2012年から13年)を、年代順に読んでいます。明治篇の最初は、文語文もあるので、旧かなづかいのままですが、明治篇の2冊目からは現代かなづかいに直しているとか、明治・大正篇には注解があるとか、時代の変わり…

用意周到

14日の夜に放映されたNHKの〈従軍作家〉を扱った番組ですが、火野葦平に焦点をあてるというところで、戦後のことなど注文もなくはないのですが、大東亜文学者会議で声明をよみあげる横光利一の映像など、けっこう努力してつくった番組だとは思いました。 大…

そろったところで

川端康成『舞姫の暦』(毎日新聞社、1979年)です。 川端没後、未刊作品を刊行したものです。初出は1935年に、新聞に連載された作品です。 地方の温泉場に成長した少女、弓子が新鋭の舞踊評論家の竹友に才能を見いだされ、上京することになります。弓子には…

情があるから

『日本近代短篇小説選』(岩波文庫)の中から、明治篇1(2012年)です。 坪内逍遥(1889年)から広津柳浪(1902年)までの作品が収録されています。日本の近代小説が、社会のさまざまなゆがみを直視し、そこをえぐりだす作品を作り上げてきたことがわかる、…

最新事情

『東日本大震災 復興支援地図』(昭文社、2011年)です。 ちょっとお休みをいただいて、つれあいの短大時代からの友人がいる岩手県の山田町まで行ってきました。ふたりとも車はないので、すべて公共交通機関を使って動きます。最近は、どこのバス会社も、HP…

つながる

風見梢太郎さんの『神の与え給いし時間』(ケイ・アイ・メディア)です。 認知症を患った継父との最期の時間をともにする主人公の思いを描いています。そのリアルな描写にも、考えるところもあるのですが、そこを通して人間のつながりの新しい関係を作者はみ…

その気になる

大野左紀子さんの『アーティスト症候群』(河出文庫、2011年、親本は2008年)です。 誰でもアーティストと名乗れば、何でもできるような風潮に関して、いろいろな事象を取り上げています。 昔から、旦那芸というものはありますから、本業とはいえなくとも、…

長期戦

『原発を拒み続けた和歌山の記録』(寿郎社、2012年)です。 紀伊半島には原子力発電所はありません。それをかちとった、現地の動きを、土地の人が書いた論集です。1960年代からはじまった、原発をつくりたい関西電力や、それに同調する人たちと、原発の危険…