2007-01-01から1年間の記事一覧

国際感覚

仲尾宏さんの『朝鮮通信使』(岩波新書)です。 巻末の参考文献をみると、今世紀になってから刊行されたものが多く、この分野への理解が最近深まっているのだと思います。たしかに、むかしは新井白石の改革のところで、少し触れられるだけという感じがあった…

遼東の豕

石母田正さんの『日本古代国家論』(岩波書店、全2冊、1973年)です。 この間、石母田さんの本を少し読んできたのですが、この論文集は、専門書という位置づけをされるというためか、用語がさすがに専門的で、(古めかしいですね、いまとなっては)少し理解…

はやりすたり

小田桐弘子さんの『横光利一 比較文学的研究』(南窓社、1980年)です。 著者に関しては、生まれ年が書いてないので断定はできませんが、「あとがき」に記述からみると、植民地の町で育ち、小学生のときに敗戦で引き揚げてきたというので、昭和10年前後のお…

気概

岩波文庫の『石橋湛山評論集』(1984年)です。 石橋湛山は、戦後政界入りして、総理大臣もつとめた人ですが、病気のためにすぐに辞職しました。この評論集には、1910年代から40年代までの、ジャーナリストとして筆鋒をふるった時代のものが主に収録されてい…

愛憎

藤田廣登さんの『時代の証言者 伊藤千代子』(学習の友社、2005年)です。 伊藤千代子(1905-1929)は、長野県諏訪の出身で、女学校時代は平林たい子と同年だったそうです。卒業後、紆余曲折はあったものの東京女子大に入学し、そこで後に野呂栄太郎の妻にな…

たくらみ

本の話ではありませんが。 東大阪市で市長選が行われています。市長を議会が不信任して、その結果、市長は辞職して選挙をやり直すということらしいのです。 似たような事例が、足立区でもかつてありましたが、そうしたまるで昔のチリのアジェンデ政権をつぶ…

方針をもつ

林廣茂さんの『幻の三中井百貨店』(晩聲社、2004年)です。 戦前、朝鮮と満洲に百貨店網を築いていた三中井の興隆と衰亡を探ったものです。植民地に商圏を広げたのは、そこで暮している日本人たちを主要な顧客としていたのですが、それだけでなく、朝鮮の上…

切実さ

三浦國雄さんの『風水講義』(文春新書、2006年)です。 研究者による概説本ですから、いわゆるハウツーものとはちがって、風水(特に墓地決め)の発想がどうなっているのかを説明しています。その点では、わかりやすい本ではないでしょう。 父祖の墓をどう…

会合

民主文学で活躍中の、旭爪あかねさんや浅尾大輔さんたちが中心になって、民主文学関係の40歳代以下の人たちを集めた集会がありました。 北海道から四国まで(九州は参加者がいなかったのです)から集まった30人くらいの参加者で、それぞれの作品の合評をした…

生活の中から

石母田正の『歴史と民族の発見』(平凡社ライブラリー、2003年、親本は1952年)です。 網野善彦が亡くなった後で、赤坂憲雄さんが『追悼記録 網野善彦』(洋泉社)を出したのですが、その中で、若いころの網野さんが、「国民的歴史学」の陣営からはずれたこ…

語るに落ちる

16日の朝日新聞に、大江健三郎さんの文章が載っています。 その中で、大江さんは、「日本のカトリックの女性作家が渡嘉敷島の戦跡碑に刻ませた文章」を引いています。 こんな文章だそうです。 「翌二八日敵の手に掛るよりは自らの手で自決する道を選んだ。一…

谷間

野間宏『志津子の行方』(河出新書、1955年7刷、初版は不詳)です。 野間が『人民文学』にかかわっていたころの作品集でしょう。旺文社文庫の年譜では、この本の収録作品では、「硝子」と「雪の下の声が……」が載っていて、いずれも1950年代初頭の作品でした…

そういえばそうなる

この前、『前衛』の古代史の鼎談についてふれたときに、古田武彦さんの九州王朝説をトンデモだというふうに言いました。 もちろん、中学時代に『失われた九州王朝』(朝日新聞社、1973年)を単行本で読んで感服していたわけですから、そうした、少しは関心を…

訓練し、新連句

柳瀬尚紀さんの『日本語は天才である』(新潮社)です。 柳瀬さんはごぞんじ『フィネガンズ・ウェイク』の翻訳をされた方で、そうした経験をもとに、日本語のいろいろな使い方について述べたものです。 その中で、〈七〉を「しち」と読むのか「なな」と読む…

能天気

内田隆三さんの『ベースボールの夢』(岩波新書)です。 アメリカ合衆国の統合にベースボールが果たした役割を、創造伝説にさかのぼって検証しています。イギリスのスポーツとは違うのだという意識が、ベースボールはアメリカ人の、よくいえばフロンティアス…

頭かくして

大石又七さんの『これだけは伝えておきたい ビキニ事件の表と裏』(かもがわ出版)です。 第五福竜丸で被爆した大石さんは、いまいろいろなところで被爆体験を語る活動をしています。この本の終わりに、そうした活動のリストがありますが、娘の通った学校も…

妄動はできない(ネタバレあり)

西野喜一さんの『裁判員制度の正体』(講談社現代新書)です。 西野さんは判事から法学の研究の世界に移ったかたで、裁判員制度を批判する立場からこの本を書いています。 人を裁くことのむずかしさを、専門的な訓練もないままにやることができるのかという…

別の側面

梶山季之(1930-1975)の『族譜・李朝残影』(岩波現代文庫)です。1960年代前半に書かれた二つの作品を中心として編まれたオリジナル編集版です。 作者は、日本の植民地だった朝鮮で生まれ育ったので、そこを舞台にした作品がこれです。作者の体験そのもの…

意外、でもない

平野謙の遺稿集(というより単行本未収録文集というほうが正確ですが)の、『わが文学的回想』(構想社、1981年)です。 彼の最晩年に社会問題化した宮本顕治の「スパイ査問事件」に関しての文書などが収められていて、小畑もスパイだったということを論証し…

ちょっと悲しい

『論座』の浅尾さんの論文です。 ひとつ、悲しいというとか、注文をつけたいところがあります。 70ページから71ページにかけてのところですが、浅尾さんはこう書いています。 「左翼の仲間には怒られるかもしれないが、いまの私には、実は、従軍慰安婦問題も…

店先

浅尾大輔さんが『論座』に論文を書いたというので、朝日新聞にも広告が出ていました。 そこで、帰りがけに近所の本屋ででも購入しようと思って、(子どもたちに夕食をつくらなければならないので)ターミナル駅の近くの本屋には寄らずに、最寄り駅の駅前の本…

むきだしの支配

松田解子さん(1905-2004)の自選集『髪と鉱石』(澤田出版)です。 松田さんは、秋田県の金属鉱山に生まれ、そこから秋田の女子師範に学び、その後上京して労働運動にたずさわる夫と出会い、結婚しながら小説を書き始めた方です。最後の作品が2002年1月号の…

がっぷり四つ

吉田裕さんの『アジア・太平洋戦争』(岩波新書)です。 日米開戦から敗戦までの時期をあつかった、コンパクトな本で、実証的なデータも使って、あの時代を上手にまとめています。あの戦争を弁護する立場の人も受け入れざるを得ない内容ではないかと思います…

コントロール

石井龍一さんの『役に立つ植物の話』(岩波ジュニア新書、2000年)です。 ジュニア新書ですので、いろいろな人間にとっての有用な栽培植物をとりあげて、それに関する話題を簡単に記しています。 サトウキビの光合成は他の植物とちがっていることだとか、そ…

発想の根本

ル・コルビュジェ『伽藍が白かったとき』(岩波文庫、生田勉・樋口清訳、原本は1937年、親本は1957年)です。 建築の細かいことはわからないのですが、著者の、新しい時代に適合した建築や都市のありかたにかんしての所見は、姿勢として考えることがありそう…

おわりのはじまり

渡辺治さんの『安倍政権論』(旬報社)です。 いよいよ安倍さんも退陣するわけですが、この本は参議院選挙の直前に書かれたものです。 安倍晋三という政治家個人のポリシーと、アメリカや財界の願う首班像とのギャップが、だんだんと政権を股裂き状況にもっ…

現代と歴史のあいだ

『その時歴史が動いた』は、今回は沢内村の話です。 実は、『自分たちで生命を守った村』も『沢内村奮戦記』も、『村長ありき』も読んだことはないので、話として聞いていたことが番組の形でわかるようになったのは、入門としてはいいのかもしれません。 こ…

言いっぱなし

昨日の続きというわけでもないのですが、日本史のトンデモ説として、ある意味最大の影響力をもっているのが、古田武彦さんが唱え始めた「九州王朝」説ではないでしょうか。 最初は卑弥呼の国が博多湾岸にあったという、わりあい文献的にはわからないでもない…

基本は大切

安良城盛昭『天皇・天皇制・百姓・沖縄』(吉川弘文館、1989年に出たものの新装増補版)です。 網野善彦批判や、「天皇制」をめぐる問題、沖縄の問題など、実証的な歴史学の分野からの論考が集められたものです。そこには、「社会構成史」の立場から、所有関…

指導

ちょっと家の機械がうまく動かないので、出先からの更新です。 永井洋一さんの『少年スポーツ ダメな指導者 バカな親』(合同出版)です。 新聞に連載されていたころから面白く読んでいたのですが、サッカーを中心に、現在のスポーツの世界をみているもので…