基本は大切

安良城盛昭『天皇天皇制・百姓・沖縄』(吉川弘文館、1989年に出たものの新装増補版)です。
網野善彦批判や、「天皇制」をめぐる問題、沖縄の問題など、実証的な歴史学の分野からの論考が集められたものです。そこには、「社会構成史」の立場から、所有関係を軸にした史料の解析と、そこからの展開がみられます。
土台と上部構造という観点からの歴史分析は、最近あまり話題にならないようで、そうした観点を、「イデオロギー的」とかいって排斥するような傾向さえ見られます。しかし、この本では、そうした分析こそが、歴史をつかむことができるのではないかという意識をもつことができます。
著者は、犬を飼うことから、中世(室町・戦国期)の「下人」と呼ばれた人たちが、現代の「犬」のような扱いを当時うけていたのではないかと論証します。それが織豊政権のなかで、人身売買が禁じられることで、「下人」という身分が解消されていくというのです。
このように、わずかな手がかりも、歴史の実態を考える材料にしていくという著者の方法は、学問の基本にのっとったものなのでしょう。
天皇制」ということばを、世界史的な概念としてとらえることで、天皇がいても「天皇制」の時代とはいえない時期も日本の歴史上存在したという認識は、今の『象徴天皇』のありようを考えるときにも大切なものなのかもしれません。
歴史に関するトンデモ説がいろいろとある現在、基本にたちかえることは必要でしょう。