方針をもつ

林廣茂さんの『幻の三中井百貨店』(晩聲社、2004年)です。
戦前、朝鮮と満洲に百貨店網を築いていた三中井の興隆と衰亡を探ったものです。植民地に商圏を広げたのは、そこで暮している日本人たちを主要な顧客としていたのですが、それだけでなく、朝鮮の上層のひとたちも、そこで買い物をして、当時の消費生活の最先端を実践していたということのようです。
もちろん、植民地で日本人が何をしていたかは、総論だけでなく、各論の部分でもっと知られなければならないのだし、ステレオタイプな認識でとまっていては、最近のいろいろな流れに対応できないことも言うまでもないことです。
三中井にしても、軍や総督府に食いこんで、御用商人としての側面は重要だったわけですから、単なる民需にだけ視点をおくわけにはいきません。
その三中井ですが、日本の敗戦を機に、当然のように植民地から撤退します。内地に店舗を持っていなかった(京都のある百貨店から買収の打診があったり、下関に支店を開かないかという働きかけもあったそうなのですが、結局決断できなかったということです)ので、再建もできず、あげくのはてに当主(代替わりしたばかりだったのですが)が遊興にあけくれて資産を蕩尽してしまったというのです。同族会社のワンマン経営が、ここまでみじめに崩壊したのも珍しいのかもしれません。植民地で現地の人たちを積極的に養成することもなかったというので、そうした点からの継承もされなかったようです。
こうした企業の運命は、今でも起こりえることではあるでしょう。