はやりすたり

小田桐弘子さんの『横光利一 比較文学的研究』(南窓社、1980年)です。
著者に関しては、生まれ年が書いてないので断定はできませんが、「あとがき」に記述からみると、植民地の町で育ち、小学生のときに敗戦で引き揚げてきたというので、昭和10年前後のお生まれだと推察されます。学習院福永武彦比較文学を学んだそうで、学部卒業後就職して、その後上智の院にはいり、そこでサイデンステッカーさんの『源氏物語』の翻訳の手伝いをされたという経歴をおもちだそうです。
サブタイトルにあるように、初期の横光作品が、外国の文学からどう影響を受けたかを論じた部分が読みごたえがありました。
この本が出た1980年は、横光がある意味読まれなかった時期だと記憶しています。新潮文庫で出ていた『旅愁』が品切れになったのが、ちょうどこの年で、入手するのに苦労した思い出があります。大学の近くの本屋に、下巻だけが売っていて、上巻がどこにもみあたらなかったのですが、演習の授業で郊外の町にいったときに、そこの駅前の小さな本屋に、なぜか上巻だけがおいてあったのです。あわてて買い求め、戻ってきて、大学近くの本屋で下巻を購入、やっとのことでそろえたのです。
岩波が『日輪』などを文庫で再刊したのも、河出が新しい全集を出したのも、次の1981年のことで、前田愛の「上海」論が出たりして、横光が流行しだしたのが、そのころだったと記憶しています。
ひょっとしたら、小田桐さんのこの本も、そうした流行のさきがけだったのかもしれません。