むきだしの支配

松田解子さん(1905-2004)の自選集『髪と鉱石』(澤田出版)です。
松田さんは、秋田県の金属鉱山に生まれ、そこから秋田の女子師範に学び、その後上京して労働運動にたずさわる夫と出会い、結婚しながら小説を書き始めた方です。最後の作品が2002年1月号の『民主文学』に掲載したものですから、きわめて長期にわたって作品を書き続けてきたかたです。
この作品集には、みずからの育った荒川鉱山を舞台にしたものや、同じ秋田の尾去沢鉱山の1936年に起きた鉱滓保管の堰堤が崩壊して毒を含んだ鉱滓が流出して多数の死者を出した大惨事に取材したものなど、20世紀前半の鉱山を舞台にした作品が収められています。
昨日の、吉田裕さんの本の中で、戦時中に戦後社会を準備した「変化」として、農村での地主と小作の関係などとともに、企業における社員と工員との差別が少なくなっていったことがあげられていましたが、松田さんの描く鉱山では、社員と坑夫との差別が鋭く追及されています。
尾去沢の災害のときにも、社員は坑夫を個人的に使役して、自分たちの家財道具をさきに避難させていたというのです。
これは極端な例ですが、日常的な差別構造があったという、戦前の日本の資本主義の実態は忘れてはいけません。
前に、『「月給百円」サラリーマン』だという、戦前の都市中間階層の姿を追った新書がありましたが、そうした世界は、この鉱山での階級支配を基盤にしていたのです。
格差と貧困が何を生み出すか、日本の歴史はしっかりと語っているのです。