2007-01-01から1年間の記事一覧

他人事ではなく

ロイ・メドヴェージェフ『1917年のロシア革命』(現代思潮新社、1998年、石井規衛、沼野充義監訳、原本は1997年刊行)です。 この方は、ソ連時代から、「少数派」として発言をしてきた方で、岩波新書でも、『ソ連における少数意見』という本を出しています。…

共同作業

小野俊太郎さんの『モスラの精神史』(講談社現代新書)です。 映画づくりが、かつての花田清輝の言い回しではありませんが、「総合芸術」であるのは、このジャンルがひとりでつくることができないものであるからです。映画『モスラ』の場合も、原作小説を書…

連続するもの

佐伯一麦さんの『ノルゲ』(講談社)です。 1997年から1998年にかけて、主人公の作家がオスロに滞在していた時期を小説にしたもので、『群像』に2001年2月から2006年12月まで連載されていたものを単行本にしたものです。 文芸雑誌の連載というものは、こうし…

合う合わない

泉鏡花の『外科室・海城発電』(岩波文庫、1991年)です。 鏡花の作品は、ずっと昔に『高野聖』と『歌行燈』しか岩波文庫になかったときに、その2冊を読んで、どうにも趣味があわないと感じて、そのあとずっと遠ざけていたのです。好きな方にはたまらないの…

終戦と敗戦

引き続き、佐藤卓己さんが中心になってまとめた、『東アジアの終戦記念日』(ちくま新書)です。日中韓の学者たちが集まって、それぞれの「終戦」意識の実態についてさぐったものです。 北海道の経験、沖縄の経験、韓国や北朝鮮、台湾や中国など、日本内地だ…

記憶のあいまいさ

昨日がミズーリ号の日というわけでもなくはないので、『八月十五日の神話』(佐藤卓己、ちくま新書、2005年)です。 佐藤さんは広島出身で、わたしと同い年なのですが、ここで彼が分析している教科書で戦争の終わりがどうなっているかの分析をみても、自分が…

類型をつくる

国書刊行会から出ている〈叢書江戸文庫〉の『式亭三馬集』(棚橋正博校訂、1992年)なのですが、三馬の作品は、たとえば十返舎一九が『東海道中膝栗毛』でやじさんきたさんというキャラをつくりだしたような、これが三馬のキャラだというものが存在しないの…

グローバル

昨日の続きを少し。 映画『クーレ・ヴァンペ』では、労働者のスポーツ祭典が終わった後、彼らが乗っている電車の中で、ブラジルではコーヒーが余っているので、焼き捨てているという新聞記事が、乗客の手によって読み上げられます。それをきっかけにして、「…

敵を知る

〈ベルトルト・ブレヒトの仕事〉第6巻『ブレヒトの映画・映画論』(河出書房新社、新装版、初版は1973年)です。 ブレヒトの映画に関するものが収録されているのですが、1932年に公開された映画『クーレ・ヴァンペ』という作品が、シナリオ制作のところから…

外から見る

ブルーノ・タウト『忘れられた日本』(篠田英雄訳、中公文庫、親本は創元社から1952年に出た文集)です。 タウトはご存知の方も多いでしょうが、ナチス政権から逃れて日本に1933年にやってきて、1936年にトルコの大学に赴任するまで日本に滞在し、桂離宮など…

思い入れ

イタリアの作家・(映画監督らしいのですがよく知らないので)のパゾリーニ(1922-1975)の『生命ある若者』(講談社文芸文庫、米川良夫訳、原著は1955年、初訳は1966年、文庫は1999年)です。 1940年代のローマを舞台に、そこに生きる底辺の若者(男)たち…

義理と人情

『近松世話物集』(角川文庫、諏訪春雄校注)の第2巻(1976年)にはいりました。 第1巻の心中物もそうですが、第2巻にも、「冥途の飛脚」のような、かけおちものがでてきます。で、近松の作品が高く評価されているのは、世間の「義理」と人間としての「人情…

ある楽しさ

中野重治のタイトルのパクリといわれそうですが。 菅野昭正さんの『変容する文学のなかで』(集英社)の完結編です。 1982年から2004年までの文芸時評を集めたものですが、2001年まではすでに上下巻で出ていたのを、今回その後の部分を追加して全3冊にしたの…

交通の便

田山花袋の『温泉めぐり』(岩波文庫、親本は1926年)です。 花袋は、けっこう旅好きだったようで、この本でも、全国の温泉をけっこう体験しています。もちろん、十和田湖には行ったことがないとか、ほかにもいくつか未踏の地はあるようで、それもまた、彼の…

死の方向

暑いので、拾い読みですが、ハンガリーの作家、モルナールの戯曲『リリオム』(岩波文庫、徳永康元訳、1951年、原作初演は1909年)と、角川文庫の『近松世話物集 一』(諏訪春雄校注、1970年)です。 いずれも、主人公が死んでしまう話だというと、乱暴な言…

強い違和感

たまたま夕方、NHKの国際情報の番組をみていたら、韓国の大統領選挙の展望をやっていました。すると、野党の有力候補として、朴槿恵(韓国語よみは覚えていないのですが)という女性の方がいるというのです。彼女は、朴正煕元大統領の娘だというのです。 そ…

遍歴

実盛和子(じつもり・かずこ)さんの『埴生の宿』(手帖舎)です。 実盛さんは、民主主義文学会の岡山で活動されている方で、小説だけでなく、短歌も作られている方です。その彼女の生活に取材したとおぼしき短編小説集です。 1928年生まれの作者のことです…

使い方

村上隆さんの『金・銀・銅の日本史』(岩波新書)です。 前近代の日本における金銀銅の採掘や利用に関しての発掘や科学的所見をもとに、日本の技術のありようについて考えています。いろいろな技術的達成と、それを可能にする職人の技については、さまざまな…

繰り返さない

大岡昇平さんの『ある補充兵の戦い』(現代史出版会、1977年)と、『戦争』(岩波現代文庫、親本は1970年初版、1978年改訂版)です。『ある・・・』のほうは、作者が1950年前後に書いた自分の戦場体験をベースにした作品を、対象となったできごとの順にならべた…

記憶をうけつぐ

『御庄博実詩集』(思潮社現代詩文庫、2003年)です。 8月号の『民主文学』の右遠俊郎さんの小説に紹介されていたので、この方のことを知ったのですが、広島で被爆(残留放射能です)し、その後医師として、水島コンビナートの公害問題にも取り組み、その後…

不在

加藤陽子さんの『満州事変から日中戦争へ』(岩波新書)です。 岩波新書が、〈シリーズ日本近現代史〉として、幕末からの歴史を、10人の著者にまとめてもらっているものですが、今回のものは、日本がどのように中国にかかわろうとしたのかを追究しています。…

目の前の展望

NHKの「その時歴史が動いた」は、瀬長亀次郎さんの話でした。『瀬長亀次郎回想録』(新日本出版社、1991年)は、昔読んだことがあったのですが、このほかにも、瀬長さんを題材にした霜多正次さんの小説「宣誓書」(1955年発表)などもあります。 戦後まもな…

記憶として

小田実さん、逝去。 「九条の会」の呼びかけ人としての業績には、感動しています。 作家としては、あまり真剣に読んだ事がないので、あまりコメントはできないのですが、『すばる』に連載中の「河」は、主人公をまだ性的に未成熟な男の子に設定したことで、…

脱出

昨日の、「ストップ貧困」のことですが、どうしても貧困状態が続く限り、どこかに脱出の道を探らなくてはなりません。その点で、参考になるかと思うのが、石川達三の『蒼氓』三部作(新潮文庫旧版、1951年)でしょうか。 時は1930年、あたかも普通選挙で(男…

ここがロドスだ

『若者の労働と生活世界』(本田由紀編・大月書店)です。 現代の若者が置かれている状況をフィールドワークして、その実態を検証しようとしているものです。コンビニの「店長」、介護の現場、「進路支援」となっている中等教育の進路指導、大学生の「就活」…

北の果て

八木義徳『摩周湖・海豹』(旺文社文庫、1975年)です。 戦時中の芥川賞が、植民地や戦争とかかわった作品をけっこう受賞させていることは、荒俣宏さんの『決戦下のユートピア』(文藝春秋、1996年)でも言及されていたような記憶がありますが、八木さんの芥…

影響力

日付は変わってしまいましたが、昨日は芥川の80周年の日なので、関口安義さんの『世界文学としての芥川龍之介』(新日本出版社)です。 関口さんは、10年ほど前の『特派員 芥川龍之介』(毎日新聞社、1997年)あたりから、積極的に芥川の社会性を追求してい…

それにしても

中村智子さんの、宮本百合子の経歴についての疑問のことに関して。 もともとのおこりは、前の記事に追記したように、百合子の「自筆年譜」に1931年に共産党に入党したという記述が、最初はなかったことからきているのです。 1948年だかに、臼井吉見編という…

入門と概説

『19世紀ロシアの作家と社会』(ヒングリー著、川端香男里訳、中公文庫、1984年、原著は1977年第2版)です。 プーシキンからチェーホフまでの時代(1825年から1904年としています)のロシアについての概説書です。ロシア文学の作品論というよりも、そこに描…

とらえなおそう

宮本顕治さん、死去。 小林多喜二たちとともに、プロレタリア文学運動にたずさわり、弾圧の中、いわゆる「地下活動」をして、別の名前で評論などを書いていました。 検挙された後は、公判以前は黙秘をつらぬき、そのあとも、妻の宮本百合子にあてた手紙で、…