ある楽しさ

中野重治のタイトルのパクリといわれそうですが。
菅野昭正さんの『変容する文学のなかで』(集英社)の完結編です。
1982年から2004年までの文芸時評を集めたものですが、2001年まではすでに上下巻で出ていたのを、今回その後の部分を追加して全3冊にしたのです。
文芸時評というのは、日本独特だときいたことがありますが、文学状況をみるのに、けっこう重宝するもので、古くは川端康成のもの(講談社文芸文庫にはいっているものがあります)や、窪川鶴次郎のもの(本のタイトルが〈文芸時評〉ではなかったので、最初読み始めたときには、そうとは気がつかなかったのですが、少し読んでいくうちに、なるほどと思ったものでした)がありますし、戦後は平野謙石川淳篠田一士、最近は川村二郎や大江健三郎など、当時の話題になった作品をとおして、いろいろな事情がわかって便利なものです。この人はこういっているが、自分はどう考えるかと自問することもできます。
その点では、いわゆる長い、本格評論もいいのですが、時評はもっと評価されていいのではないかと、いつも思っています。菅野さんも、今回の本のあとがきで、「時評はあくまでも文芸批評のひとつの形態である」といっているのもうなずけます。