繰り返さない

大岡昇平さんの『ある補充兵の戦い』(現代史出版会、1977年)と、『戦争』(岩波現代文庫、親本は1970年初版、1978年改訂版)です。『ある・・・』のほうは、作者が1950年前後に書いた自分の戦場体験をベースにした作品を、対象となったできごとの順にならべた作品集で、『戦争』のほうは、事実の回想記です。回想と小説のちがいということも考えさせられるのですが、ともかく、妻子もちの30代後半の第二乙の人間まで召集して、フィリピンまでもっていくという、日本の戦争遂行の実態がみえてきます。
広い視野に立てば、どうしてこんなことまでしたのかと思うようなことを、平気でしてしまうところに、当時の日本ははまりこんでいたのでしょう。
作者は、「『この道はいつか来た道』ということ自体が、すでにもう敗北主義につながるんであって、そういうふうにいうべきでない」(『戦争』、209ページ)といっています。進むさきになにがあるかを見極めていけば、おのずと、選ぶ道はみえてくるのでしょう。