入門と概説

『19世紀ロシアの作家と社会』(ヒングリー著、川端香男里訳、中公文庫、1984年、原著は1977年第2版)です。
プーシキンからチェーホフまでの時代(1825年から1904年としています)のロシアについての概説書です。ロシア文学の作品論というよりも、そこに描かれている社会の実相を研究したものですので、ある程度ロシア文学に少しは親しんでいるほうが理解しやすい本だとは思います。ソビエト政権がなくなって20年近くたちますが、そうした時間の経過をへてみると、ロシアという地がもっている継続性が見えてくるような感じがします。翻訳した川端さんは、まだソビエトがあった時代の翻訳なので、著者の見方は、〈反ソ的〉かもしれないと、いくぶん遠慮がちに記していますが、今になってみると、そうした遠慮は不要だったように思えます。
最近の新訳ブームの実態はよくわからないのですが、(翻訳されている方の実績を見る限り、そんな心配は不要だと思うべきなのですが)こうした地道な当時の社会の嫌研究を無視して、単に「新しさ」を追求するような読み手ではいけないのでしょう。たとえばゴーゴリの喜劇性を重んじても、農奴制の厳しい支配があればこそ、『死せる魂』のもつ現実批判が意味をなすのだということは、否定できないことなのですから。
古書店で手に入れたのですが、こうした本が、品切れ状態なのは残念です。

カウンターがいつの間にか10000を越しています。見てくださるみなさまに感謝します。