不在

加藤陽子さんの『満州事変から日中戦争へ』(岩波新書)です。
岩波新書が、〈シリーズ日本近現代史〉として、幕末からの歴史を、10人の著者にまとめてもらっているものですが、今回のものは、日本がどのように中国にかかわろうとしたのかを追究しています。
その結果、政治や外交・軍事の話が中心になって、この時代の民衆の動向にはほとんど筆が割かれてはいません。その点では、1930年代の全体像をつかもうとオ思う人には不満が残るものになっています。
第一次大戦を経て、国際関係の基準が変わりつつあるのに、それ以前の勢力圏思想ともいうべき、国家に守られた経済進出という観念が、ひとびとを支配していて、それが容易に戦争への道を支持させることになったというのが、著者の意見なのでしょう。なんだか、いまの、第二次大戦後の国際秩序の基本をふみはずしそうな、〈靖国派〉の人たちも思い起こさせます。