思い入れ

イタリアの作家・(映画監督らしいのですがよく知らないので)のパゾリーニ(1922-1975)の『生命ある若者』(講談社文芸文庫、米川良夫訳、原著は1955年、初訳は1966年、文庫は1999年)です。
1940年代のローマを舞台に、そこに生きる底辺の若者(男)たちの姿を描いた作品です。近松を読んでからこれにとりかかったので、前に書いた近松作品の主人公たちが決して社会の秩序を守った人間ではなかったことと、パゾリーニの描く若者が、やはり社会的にはアンモラルなところとを重ねて考えたりもしました。
作者が、主人公たちにどの程度「いれこんで」いるのかということが、近松にもパゾリーニにもいえるのではないかということです。それは単なる同情とも、共感ともちがうのではないかと。「リアルに描く」というと、ついつい個々の行動などをとりあげることもなくはないのですが、そういうことを超えた、作者の「いれこみ」ということが感じられるのかどうかが、作品が生きるかどうかということにつながるように思えます。
実名を出すのはかわいそうかもしれませんが、宮崎誉子さんの『新潮』に書いた、「欠落」という今回の作品は、どうも作者が「いれこんで」いないように感ぜられて、読んでいて、おもしろくなかったというのが、正直なところです。決して「書けない」人だとは思わないのですが。