連続するもの

佐伯一麦さんの『ノルゲ』(講談社)です。
1997年から1998年にかけて、主人公の作家がオスロに滞在していた時期を小説にしたもので、『群像』に2001年2月から2006年12月まで連載されていたものを単行本にしたものです。
文芸雑誌の連載というものは、こうした長期にわたるものが多いのが、日本の文学の特徴なのでしょうが、この作品も、そういう面では、〈9・11〉以前と現在とをつなぐものになっているように見えます。
作者の経歴からすると、この作品の舞台になっている時期は、『川筋物語』(朝日新聞社、1999年)にまとめられる連作を書いていたころで、作品の中にもその原稿をオスロから日本に電送する場面もあります。
作中で、主人公の妻が、「織る」と「編む」のちがいを語る場面があります。「織物」はほどくとばらばらになってしまうが、「編物」は、ほどいてもふたたび編みなおすことができる、人生にもそういうことがあるのではないかというのです。
主人公は、最初の妻との生活が破綻して、病んだ状態でいまの妻と出会っています。そうした生活には、「編物」のたとえは、しみるものがあるのでしょう。
私小説」という形で、人生を編みなおしているのが、佐伯さんの作品だとしたら、そこにある再生の姿は、作家の精神なのでしょう。自分の経験を作品にするというのは、そうした「編みなおし」の覚悟でもあるのです。