交通の便

田山花袋の『温泉めぐり』(岩波文庫、親本は1926年)です。
花袋は、けっこう旅好きだったようで、この本でも、全国の温泉をけっこう体験しています。もちろん、十和田湖には行ったことがないとか、ほかにもいくつか未踏の地はあるようで、それもまた、彼の飾らない文章を明らかにしているようです。
以前、交通公社が、『時刻表復刻版』のシリーズを出したときに、その「戦前編」で、1925年4月の時刻表をその中に含めました。今回、その索引地図と、花袋の記述をつきあわせてみると、けっこう参考になります。
たとえば、この当時は、まだ上越線ができていないので、沼田と塩沢の間は汽車が走っていません。つまり、越後湯沢や水上が、この当時は僻地となっているのです。この例は極端ですが、そうした時代の変遷を感じるのも、またおもしろいものです。
鉄道が走る前は汽船が主な手段で、それが鉄道になり、そして現在の自動車全盛になっていく姿も、考えてみれば、近代日本のある姿の反映ではあるでしょう。
福島県の湯本温泉を訪れた花袋が、常磐炭鉱のために温泉が涸れている様子を描いたところなど、考えさせるものがあります。