共同作業

小野俊太郎さんの『モスラの精神史』(講談社現代新書)です。
映画づくりが、かつての花田清輝の言い回しではありませんが、「総合芸術」であるのは、このジャンルがひとりでつくることができないものであるからです。映画『モスラ』の場合も、原作小説を書いたのは中村真一郎福永武彦堀田善衛の三人ですし、それに映画そのものとして、多くの人たちがかかわっています。特撮の円谷英二もそうですし、音楽には古関裕而がかかわっているのだそうです。そういうことも、この本では、かれらの仕事が、戦前からの連続性をもっていることも指摘しています。
そのへんのことは、映画に詳しい方ならご存知のことなのでしょうが、この本で、原作小説そのものの分析がされ、それと彼らのほかの作品との連関が論じられているのは、いままであまり触れられなかった分野だけに、見落としていたようなところでしょうか。『海鳴りの底から』や『審判』と、「発光妖精とモスラ」とは、たしかに堀田の意識のなかではつながっていたにちがいありません。「発光妖精とモスラ」が、1994年に筑摩書房から刊行されたとき、もう故人になっていた福永は別として、「あとがき」を書いたのは中村真一郎だけで、堀田は何も語っていないこととも、関係するのでしょう。