へりを回る

平野謙の『わが戦後文学史』(講談社、1969年)です。
タイトルから予測して、「党生活者」をめぐってのいわゆる〈論争〉などのはなしや、雑誌『近代文学』と『新日本文学』とのかかわりなどについての回想かと思ったら、そういう趣旨の話は最初のほうだけで、ほとんどが伊藤整中村光夫のことだったり、最後には中村光夫の「暗夜行路」論から平野なりの「暗夜行路」への意見という形になって、収拾のつかないままむりやり幕を閉じたという印象のものでした。そこに平野の、戦時中の自分の行動について、きちんと総括しきれない面があらわれているのではないかとも考えます。杉野要吉さんが、戦時中の平野の行動について大著をかつて刊行しましたが、そこにあらわれる平野の姿を、彼自身がきちんと見直していたら、戦後文学も変わったのかもしれません。
「党生活者」についても、あの主人公の行動を、作者がどう評価して描こうとしているのかについての検討が行なわれずに、「笠原」に対する佐々木の態度を多喜二の経験と同一視したり、当時の党の運動方針そのものと解釈したりという、どちらも作品の内実に即してはいない批判が、まかり通ってきたこと、それへの逆ゆれとして、「多喜二的身構え」が、戦後まもなくの運動のなかで強調されたこと、いずれも今は乗り越えなければならないことではないでしょうか。