勝ち負け・つづき

選挙といえば、小林多喜二の「東倶知安行」という作品があります。1928年の普通選挙(といっても男子だけですが)に北海道1区(札幌・小樽とその周辺)から立候補した労働農民党の山本懸蔵候補(作中では島田になっています)を応援した主人公(作者の反映といわれています)の話です。
この作品は、一度ある雑誌に送って掲載されなかったようなのですが、それを投獄中に別の雑誌に掲載しています。そのとき、多喜二は獄中からこの作品の発表に対してためらう気持ちをもっていたということがいわれています。
獄中にいる作者には、権力のもつ力がわかっていて、その点からすると、「東倶知安行」の登場人物たちが、選挙戦を軽く考えていたように見えたのでしょうか。選挙の1度の勝ち負けがすべてを決するわけではないですが、そうしたことを見通すだけのリアルな眼が、この作品を書いた当時の自分にあったのかを、多喜二はふりかえってみたのかもしれません。
こんどの至文堂の特集に、単独で「東倶知安行」を扱ったものがないのも、そうした作品の内容と関連するのかもしれませんね。