格差の時代

前回の続きで、『モダニズムのニッポン』ですが、組み合わせる本は、岩瀬彰さんの、『「月給百円」サラリーマン』(講談社現代新書)です。
モダニズム…』のほうが、いわば時代の最先端を取り扱っているのに対して、岩瀬さんのほうは、その前提となる、昭和戦前の時代の、中流階級の実態を資料から読み取っています。
戦前の日本社会が、きわめて格差の大きい社会であったことは、この2冊の本を読むとよくわかります。1930年に大阪商船という会社の発行した、「冬の船旅」というパンフレットがあるのだそうですが、それには、「近年、歳末から年初へかけての数日を、一家挙って、暖かい南の国や、冬知らぬ温泉郷で過すことが、大分一般に計画され、実行されるようになりました」と書かれているそうです。もちろん、そういう正月を過せる人たちは、ごくわずかであることも現実でしょう。世界恐慌の影響で、失業が増え、労働争議も頻発している時代に、温泉リゾートができるというのですから。
けれども、こうしたパンフレットができるということは、それを必要とする一定の層が存在することでもあるのですから、そういう格差の時代がかつて日本にあったことは、知っておかなければならないのでしょう。岩瀬さんの本では、三井や三菱などの大財閥では、卒業した学校によって、初任給も、昇給のペースもちがっていたという、上層のなかでも格差が激しかったことが紹介されています。
実際、「満洲事変」の結果、日本は少しは景気がよくなってきたという実感を、ひとびとは抱いていたようですから。
「がんぱったひとが…」と、よく言われますが、「みんなが豊かになる社会」をめざすというのは、今は夢なのでしょうか。そうではないと思う人も多いのではと思いますが。

岩瀬さんの本で、中学受験を「お受験」と書いてますが、このことばは小学校の受験(6歳児)をさすことばだと思っていましたが、最近はこの〈誤用〉がめだつような気がします。こうした使い方も多くなっているのでしょうか。