紹介と論評

坪内祐三さんの『「近代日本文学」の誕生』(PHP新書)です。
『文学界』の巻末に、〈吾八〉という匿名で書いていたコラムの集積で、初めて本になって、坪内さんの著作であることが判明しました。
コラムですから、その号のちょうど100年前に何が起きたかを、毎月書いていったものです。こういう文章になると、坪内さんは本領を発揮します。
彼の、紹介文の才能に関しては、『一九七二』(文春文庫)を単行本で読んだときにも感じたのですが、きちんとした論証よりも、さまざまな事例をとりあげて、それを並べることにすぐれている人だと思いました。だから、ひとつまちがえると、『慶応三年生まれ 七人の旋毛曲り』(マガジンハウス)のように、途中で〈飽きた〉とかいって、投げ出してしまうこともあるようです。
そういう人だと思って、論証ではなく紹介と思って読んでいくといいのかもしれません。