ぶつかりあいのなかで

『文学全集を立ちあげる』(文藝春秋)です。丸谷才一三浦雅士鹿島茂の鼎談で、世界文学全集と日本文学全集を企画するという、ある意味「遊び」(別に悪い意味じゃなく)の企画です。
つっこみのいれどころはもちろんたくさんあって、なんで魯迅がないのとか、ショーロホフの「人間の運命」とプラトーノフの「帰還」くらいはあってもいいのではとか、ドス・パソスやドライサーはどうしたとか、日本で言えば、仁斎がなくて徂徠があるのかとか、蜀山人に2冊で茶山は3分の1かとか、弥生子と百合子でくみあわせてみたらどうかとか、そういう自分なりの感想を、読んだ人がもつことができるところが、この本のいいところなのかもしれません。別に鼎談者の文学観にすべて納得しなければならないということはないので、そういう意味では、肩ひじ張らずに楽しくさらりと読めたものでした。

上巻と中巻は書いた『現代日本文学論争史』ですが、下巻はあまりおもしろくなかったというのが正直なところです。それだけ、戦時体制のなかでの文学についての発言がつまらないということなのかもしれません。岩倉政治さんの文章がありましたが、戦時中はああいう発言をしていたということを、隠さず収録を許可したところに、責任の取り方を感じました。書いたものは消えないのですね。