極限から

『けものたち・死者の時』(ビエール・ガスカール作、渡辺一夫・佐藤朔・二宮敬訳、岩波文庫、原著は1953年、親本は1955年)です。
フランスの戦後派文学という位置づけになるのでしょうか、作者は1916年生まれといいますから、日本で言えば野間宏、ドイツのハインリヒ・ベルと同年代というところですね。
フランスは戦勝国とはいえ、一度はドイツに降伏し、占領下におかれた経験をもつわけで、その点では、ある意味敗戦国でもある微妙なところがあるのでしょう。そういう意味で、いまあげた日本やドイツの作家たちの、戦後初期の作品に感じるような、ざらつく感じが、これらの作品からは感じられます。作者は捕虜の体験もあるようで、実際に戦場を経験したところが、そうした共通性のもとかもしれません。
決して気持ちのいいものではありませんが、しないほうがよい体験をしてしまうことが生み出すものには、注意を払う必要はあるでしょう。