幸か不幸か

太宰治の『お伽草紙新釈諸国噺』(岩波文庫、2004年)です。
戦中にかかれた太宰の、昔話や西鶴の作品をモチーフにしたものです。
最近も、集英社文庫の『人間失格』のカバーが話題になったりなど、太宰はいろいろと読まれているようですが、彼の本領はどこにあったのかと考えると、どうしても戦前・戦中の作品ではないかと思うのです。
この文庫に収録されたものでは、「お伽草紙」のほうが、作者の想像力がはばたいていて、それだけおもしろくなっている(原作の縛りが西鶴のほうがきついこともあるのでしょうが)のですが、太宰独特のアイロニカルな部分が、こうした昔話になると、うまく出ているような感じがします。
この時期には、『津軽』やら『惜別』(『惜別』の評価はいろいろとありましょうが)やらという意欲作が相次いでいたころなので、戦争がなければ、もっと自由な発想でものが書けたのかもしれません。ただ、戦後のような流行作家にはならなかったのではないか、もっと自分の「安定」してきた生活を地道にみつめながら、世情をえぐる作品を書くような、地味な、大人向けの作家になったのではないかとも思います。