うちとそと

ヴァージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人』(丹治愛訳、集英社文庫、原作は1925年、親本は1998年)です。
1923年6月のある日(特定できるそうですが)、保守系の代議士、ダロウェイ氏の夫人、クラリッサ・ダロウェイが、パーティーをひらきます。それをめぐって、その日の、関係するさまざまな人びとの内面が描かれるのです。そこには、インドの植民地支配のことや、戦争(第一次大戦)で精神に異状をきたし、自ら死を択ぶ帰還兵も登場します。
しかし、作者の思考は、それを内面の劇としてとらえるところにあります。前に同じ作者の、『灯台へ』について書いたことがあります(2007-7-1)が、平穏にみえる日常の中の、あやふやなものを書こうとするのが、作者の本領なのでしょう。
ダロウェイ氏が、自分の娘、エリザベスにみとれる場面がありますが、そうして、徐々に社会の前面にでる世代も変わっていく、そうした流転も、彼女の作風なのでしょう。
作者たちのグループによって、『源氏物語』が西洋に紹介されたのも、そうした意味では当然のことだとも感じられます。