せめぎあい

佐々木一夫さん(1906−1987)の『魅せられた季節』(新日本出版社、1971年)です。
終戦直後の鳥取県中部のある農村を舞台に、その村での戦後の農地改革とそれをめぐる地主と小作との動き、それと関連して、町の工場での労働組合の結成、そうした民主化の運動の盛り上がりと、それを阻もうとするふるい勢力や政府や進駐軍の動きを、1945年から1948年3月ころまでの流れを追った小説です。主人公(作者を投影したのでしょう)は、東京で生活していたころは、文学にも志し、宮本百合子(作中ではちがう名前になっていますが)との交流もあって、戦後新しい文学団体ができると、百合子は主人公に手紙を送って、文学への誘いをするのです。しかし、主人公は農村の民主化のために農民組合をつくったり、共産党に入党して動き回ったり、とこの作品の中では文学は後景に退いています。
戦争前の運動の経験はあっても、新しい状況のなかでどのように運動をつくり、要求をまとめていくのか、また、それに対抗するかのような根深い反共意識とのたたかいや、地主たちの抵抗、さらには最初は民主化を援助するかのような占領政策が、だんだんと権力をまもるほうに変化していく姿と、戦後初期のさまざまな動きが活写されています。
鳥取では1949年の総選挙で、共産党から米原昶さんが当選するのですが、それにつながる運動が、こうしてもりあがっていったのだとも予測させられます。
戦後の日本が経験した、そうした民主化のうねりと保守層の反撃について、各地の実情を知ることができるという点で、こうした作品はもっと知られ、読み継がれていくべきなのでしょう。