上部構造

溝口雄三・池田知久・小島毅さんの共著『中国思想史』(東京大学出版会)です。
秦漢・唐宋・明清・清末の交替期をポイントとしてとらえ、その時代に形成された思想のありようを、社会の変化とあとづけて論じています。長期的な視野にたつことで、唐の滅亡から五代をへて宋の建国にいたる50年あまりと、清が滅亡して軍閥割拠の時代をへて人民共和国成立までの40年弱とを、対比させて考えることができるようになるのです。遼が燕雲十六州をおさえたのと、日本が東三省に偽国をつくったのも、似ているのかもしれません。
そうしてみると、明清期につくられた、中国の宗族社会の結合が、理念としては人民共和国に受け継がれたというのも、筋としてはわかります。宗族ではなく人民公社が、その共同を担うはずだったのでしょう。しかし、いまのところ、グローバル化が中国の社会にどういう影響を及ぼしていくのかはまだわかりません。沿岸部の工場ではたらく若い女性労働者は、〈年季があける〉と故郷に帰っていくという番組をむかしみたことがありましたが、かつての日本がそうだったように、低賃金を吸収する農村社会が崩壊したならば、どうなるのか。
そういう点では『思想史』というタイトルですが、社会史の視点も含んでいて、あらためてイデオロギーは上部構造だと思わせます。