豊かさの代償

瀬川拓郎さんの『アイヌの歴史』(講談社選書メチエ)です。
縄文文化から、擦文時代をへて、アイヌ時代にいたる時期の北海道の歴史という位置づけになるのでしょう。縄文時代には、日本列島のほかの島とそんなに変わりのない状態であったのが、続縄文時代になると、本州とはちがったみちのりを進みます。それは、文字を使って国家という形の支配体制をとるのではなく、文字や国家をもたず、採集狩猟交易のなかで生きる道をさがした人たちの流れという形になるというのです。
それは、たとえば、サケを交易の材料とするために、集落の位置を洪水のときに冠水する危険性のある低い土地にもつ(縄文期にはそんなところには集落を営まないというのです)ことだとか、そのためには戦も辞さないとか、そういう形で、北海道島のひとたちは社会をつくっていったというのです。樺太島では、大元ウルスの出城が発掘されたり、北海道島から樺太島に渡っていった人たちが営んだとおぼしき遺跡がでたりと、新しい知見もあって、いままでなかなか知らなかった北海道島やその周辺に住んでいた人たちの状況が明らかになっていきます。
それは、アイヌのひとたちを、素朴な自然民と見ること自体が、本土の和人の色眼鏡であったことを知ることでもあるのです。
文字を持たない選択を軽んじてはいけないのでしょう。