視点

小林英夫さんの『日中戦争』(講談社現代新書)です。
小林さんは、日中戦争を、日本の側には外交戦略が欠如していて、対外的に日本の立場を支持してもらおうという姿勢が、政府にも軍部にもメディアにもなかったのに対して、中国側はそうした戦略にたけていたといいます。
スノーやスメドレー、ベルデンなどのジャーナリストが、中国側を取材して、それを全世界に報道することで、中国側の立場が国際的に理解されていったというのです。
たしかに、日本側の従軍記といえば、林芙美子の『北岸部隊』などのレベルで、参加した本人の感想ではあっても、戦争そのものの大局的な分析はないも同然です。
そうした「内向き」の視点は、いまも同じのような感じはします。何年か前に、イラクで日本人が3人人質になったときに、拘束した側が憲法9条を話題にしたこと(追記憲法ではなくて、ヒロシマナガサキだったような気がしてきました。そうだとしても、趣旨には変更はないですが)に対して、政府のどこかの部署がコメントを出して、「これは日本人の作文ではないか」という趣旨の発言をしたことがありました。日本国憲法(これもヒロシマナガサキの可能性があるわけですね)が国際的にもっている知名度も意義も、政府は全く理解していないということが、よくわかる発言で、そうした国際感覚の欠如は、容易に排外主義に流れていくような感じもあります。
当時の日本は、海外のニュースを直接受信できる短波受信機をもつことが禁じられていたわけで、その点では、いまのどこかの国の情報統制を笑うことはできません。
そういうふうに、過去から学ぶことは大きいのでしょう。