2014-01-01から1年間の記事一覧

かすかな光

仁藤夢乃さんの『女子高生の裏社会』(光文社新書)です。 秋葉原を中心にして、高校生を〈売り物〉にした「商売」がはじまっているのですが、その「お散歩」という仕事をしている子どもたちの実態を描いたものです。その取材を通して、どのような形で彼女た…

積み重ね

松本徹さんの『師直の恋』(邑書林、2001年)です。 松本さんは、古典の舞台を現代にたどり直して、そこに通ずるものを発見するエッセイをたくさん書いているのですが、これもその一つです。 「仮名手本忠臣蔵」といえば、赤穂浪士の討ち入りに材をとった作…

自虐といわれて

エンツェンスベルガー『何よりだめなドイツ』(晶文社、1967年、原本は1967年)です。 当時のドイツの中の現状に対して物申すエッセイ集なのですが、その中に、ラス・カサスの「インディアスの破壊に関する簡潔な報告」についての解説があります。それによる…

先は長い

高橋秀実さんの『「弱くても勝てます」』(新潮文庫、親本は2012年)です。 開成高校の野球部を取材したもので、普通の学校とは少し違った野球を追求している姿を描いています。文庫本には桑田真澄さんが解説を寄せていて、野球というスポーツが、戦時中に精…

ちょっと後から

『文学界』10月号に、赤坂真理さんと内田樹さんの対談が載っています。そのなかで、内田さんは赤坂さんの『東京プリズン』を例に挙げ、女性による新しいきりこみだと評価しています。そこで引き合いに出すのが、〈24年組〉といわれた竹宮恵子さんや萩尾望都…

わかったような

黒川創さんの『リアリティ・カーブ』(岩波書店、1994年)です。 戦争や平和をめぐるいろいろな断想的なエッセイ集とでもいうのでしょうか、『思想の科学』や『海燕』に発表された文章を集めています。戦後の思想や行動を掘り起こして、そこに意味を持たせよ…

これでもかこれでもか

櫻本富雄さんの『戦争はラジオにのって』(マルジュ社、1985年)です。 1941年12月の日米開戦以来の、報道のありようを検証したもので、ラジオが何を伝えたのか、それに従って当時の〈知識人〉たちがどんな発言をしたのかを紹介しています。 特に、ラジオは…

くどい

池井戸潤さんの『銀翼のイカロス』(ダイヤモンド社)です。 半沢直樹ものの最新作ということで、航空会社再建にあたって、銀行に債務を一部放棄させるという再建策が政府筋から出たのに対して、半沢がそれを撤回させるという流れです。 半沢が融資畑を歩い…

椅子取り

田島一さんの『続・時の行路』(新日本出版社)です。 〈三ツ星自動車〉の派遣切りに対してたたかう労働者の姿を描いた作品なのですが、この作品では、提訴した結果、地方裁判所で負けてしまいます。時期を限った労働契約なのだから、雇い止めになるのは当然…

少しずつでも

『風見梢太郎原発小説集』(民主文学館、光陽出版社発売)です。 この間、『民主文学』誌に掲載されていた短編に、同じ登場人物のその後を描く書き下ろしも含めてまとめたものです。 原発事故以降の、さまざまな場面をとらえて、事故が人びとに与えている事…

賞と注目

柴崎友香さんの『わたしがいなかった街で』(新潮社、2012年)です。 柴崎さんは今回、芥川賞をとっていますが、それ以前には、野間文芸新人賞を受賞しています。これと三島賞とをあわせて、純文学分野の新鋭三賞といわれるもので、笙野頼子さんと鹿島田真希…

あらためて

土井大助さんが、先月末に亡くなられました。 『民主文学』の編集責任者として、いろいろとご指導いただいたものでした。 あらためて、何か書こうとすると、難しいものです。 これだけで、ご了承ください。

南の海

宮内泰介、藤林泰のお二方の共著、『かつお節と日本人』(岩波新書、2013年)です。 かつお節自体は古代から日本で食されてきたわけですが、この本では、近代のかつお節づくりに南洋産のものがどのようにかかわってきたのかを中心に述べています。特に、削り…

少しずつ

稲沢潤子さんと三浦協子さんの共著、『大間・新原発を止めろ』(大月書店)です。 青森県大間町につくられようとしている、プルトニウムを燃料としようとする原発に対して、反対を貫く人たちを取材したルポルタージュです。 この町でも、推進派の人たちは、…

感覚の冴え

西野辰吉『米系日人』(みすず書房、1954年)です。著者の最初の作品集らしく、1950年代初頭に書かれた作品が収められています。 この時期は、朝鮮戦争が行われているなかで、講和条約が結ばれ、日本がいちおうの〈独立をはたした〉時期です。けれども、アメ…

ためこみ

『文化のいま、これから』(新日本出版社、1991年)です。音楽や映画、美術や文学の当時の状況や、企業の文化への出資(メセナと呼ばれていたとか)に関する、科学的社会主義の立場からの分析です。 バブル景気のころですから、いまからみると、結構意外なこ…

つながる重さ

林屋辰三郎『町衆』(中公文庫、1990年、親本は1964年)です。 著者には岩波新書に『京都』という著書があり、そこでは上古から近代までの京都のあゆみを述べているのですが、この本では、中世から近世初期までの、〈平安京〉ではなく、〈京都〉になっていく…

訃報をきく

ナディン・ゴーディマさん、死去の報を聞きました。南アフリカのアパルトヘイトの実情を描く作品が印象に残ります。

名を変える

加藤則夫『たにぜんの文学』(ウインかもがわ、2012年)と『谷善と呼ばれた人』(新日本出版社)です。 戦前は労働運動からプロレタリア文学の世界で活躍し、戦後は長く代議士として京都の革新陣営の中心にあった谷口善太郎(1899‐1974)について書かれたも…

やがて悲しき

飯沢匡『多すぎた札束』(新日本出版社、1981年)です。 作者の〈政治喜劇三部作〉ということで、ロッキード事件に想を得て書き始め、青年劇場が演じた作品が収められています。 〈棚岡格兵衛〉だとか、〈木石甚助〉だとか、実在の政治家をほうふつとさせる…

対決

『ホト河でのたたかい』(李英儒著、石川賢作訳、新日本出版社、1964年、原著は1951年)です。 1942年の河北省における日本軍に対しての八路軍と地元住民の戦闘を描いた作品です。 日本軍が、太平洋地域まで戦争を広げたとき、中国戦線でなにが行われたのか…

あやかる

元木泰雄さんの『保元・平治の乱』(角川ソフィア文庫、2012年、親本は2004年)です。 律令制に立脚した摂関政治、院政体制が崩壊して武士による自力救済の世にかわってゆくポイントとなる兵乱を、辞事態の経過にしたがって述べてゆきます。軍記物語のみなら…

弟子

太宰治『津軽通信』(新潮文庫、2004年改版、文庫オリジナル編集)です。 当時、新潮文庫未収録の短編をあつめたのだそうですから、時期的にも戦時下のものから戦後のまでいろいろとあって、それはそれで、時勢の変遷もみることができます。 そのなかに、「…

似た話

ピート・ハミル『イラショナル・レイビングス』(沢田博訳、青木書店、1989年、原本は1971年)です。 著者が1960年代に書いた、ジャーナリスティックな文章を集めたものです。ロバート・ケネディ殺害の現場にもいたので、その時のレポートもはいっています。…

動かす

『岩波講座 日本歴史』の近世の巻をなんとなく読んでいたのですが、近世城下町のなかには、弘前のように、お寺を1か所に集めて〈寺町〉と称するようなことがよくあったようです。けれども、神社をあつめて〈やしろまち〉にした例はあまり聞かないように思え…

分裂

竹内泰宏『第三世界の文学への招待』(御茶の水書房、1991年)です。 著者はながくアジア・アフリカ連帯の仕事をしてきたので、この本でも、そうした経験について述べています。南アフリカの詩人の来日のときの話など、たしかにアフリカについての先入観など…

何のことはない

『ビッグコミックオリジナル』というマンガ雑誌に、「テツぼん」という作品が連載されています。 鉄道好きの政権与党の若い衆議院議員が、それを周囲にさとられないようにしながら、自分の好みを政策提言につなげていくというのが、大枠のストーリーなのです…

既知と未知

福田和也さんの『乃木希典』(文春文庫、2007年、親本は2004年)です。 福田さんの人物評伝は、1960年生まれという年齢からいって、ちょうど『坂の上の雲』の単行本が完結した時代に小学生から中学生になるやならずという、いろいろな近代史や戦記ものが出た…

直前

川喜田愛郎『医学概論』(ちくま学芸文庫、2012年、親本は1982年)です。 大学生向けの教科書という体裁ですから、医学とは何かを、初歩から解説しているという点では、医学生以外にもけっこうおもしろく読めるのではないでしょうか。 そこでは、医学が現実…

鼻血

『美味しんぼ』ばかりが騒がれていますが、たしか山本おさむさんの『今日もいい天気』で、飼い犬のコタが鼻血を出していたのではなかったでしょうか。