名を変える

加藤則夫『たにぜんの文学』(ウインかもがわ、2012年)と『谷善と呼ばれた人』(新日本出版社)です。
戦前は労働運動からプロレタリア文学の世界で活躍し、戦後は長く代議士として京都の革新陣営の中心にあった谷口善太郎(1899‐1974)について書かれたものです。
加藤の本は、1980年代から研究していたものを著者没後にまとめたものなのですが、いままであまり光の当てられていなかった谷善の文学活動をていねいに追っています。京都に出る前、故郷で読書サークルに参加し、短歌を詠み、自費出版で歌集まで出していたことなどは、あまり知られていなかったことだろうと思います。
また、弾圧によって執筆活動を禁じられていた時に、貴司山治が京都までやってきて、谷善に文学運動への参加を呼びかけていたなど、当時の文学運動の広がりもわかります。筆名として使った「須井一」が、当時の総合雑誌に執筆するために、仲間に頼んで影武者をたてたところ、その人が検挙されて、「もう書かない」条件で釈放されたために、筆名を変えたことなど、これは知られてはいましたが、いきさつがはっきりと記されているのは、貴重なものだと思います。
こうした仕事は、もっと知られていいものでしょう。