弟子

太宰治津軽通信』(新潮文庫、2004年改版、文庫オリジナル編集)です。
当時、新潮文庫未収録の短編をあつめたのだそうですから、時期的にも戦時下のものから戦後のまでいろいろとあって、それはそれで、時勢の変遷もみることができます。
そのなかに、「未帰還の友に」(1946年)という作品があります。戦地におもむいてまだ復員してこない年少の弟子に関する記憶をつづった作品です。
このモデルは、仙台出身ということですから、戸石泰一ではないでしょうか。戸石さんは戦後、いくつか作品を書きましたが、その後しばらく東京都の教員を勤め、それからふたたび小説を書き出したという経歴の方です。戦地での体験をもとにした、「待ちつづける『兵補』」(1972年1月の『民主文学』掲載)が、最近では集英社の〈コレクション戦争と文学〉のシリーズに収録されました。その人の、学生時代の生活の一端が見えます。そういう意味では、太宰の記録は、貴重なものなのかもしれません。もちろん、小説ですから、どこまで本当かはわかりませんが。