感覚の冴え

西野辰吉『米系日人』(みすず書房、1954年)です。著者の最初の作品集らしく、1950年代初頭に書かれた作品が収められています。
この時期は、朝鮮戦争が行われているなかで、講和条約が結ばれ、日本がいちおうの〈独立をはたした〉時期です。けれども、アメリカの影が、人びとの生活に落としているものを、作者はみつめます。「米系日人」や「烙印」では、米兵との関係をもつにいたった女性の陥る苦しみに作者はよりそいますし、「C町でのノート」では、米軍基地に警備員として勤務する日本人が住居に侵入しようとした日本人を威嚇射撃をして死なせてしまう事件を材料にして、基地と日本人との関係をあぶりだします。「夜の焚火」では、日常にからめとられる労働者の生活と、反抗する学生とが対比的に描かれます。灯火管制の訓練を町会が行うのですが、学生寮では焚火をして抵抗するのです。朝鮮戦争の時、小倉あたりでは実際に空襲警報が発令されたそうですが、そうした「訓練」を平気でおこなうような、当時の姿がみえてきます。