賞と注目

柴崎友香さんの『わたしがいなかった街で』(新潮社、2012年)です。
柴崎さんは今回、芥川賞をとっていますが、それ以前には、野間文芸新人賞を受賞しています。これと三島賞とをあわせて、純文学分野の新鋭三賞といわれるもので、笙野頼子さんと鹿島田真希さんとが、三賞すべてを獲得しています。その点では、以前から注目されていた作家ではあったわけですが、今回で広く知られるようになったということなのでしょうか。
この作品は、30代後半の主人公の意識と、自分にまつわる戦争の記憶(主人公の祖父は原爆投下直前まで広島のホテルで働いていたそうです)とをつなげながら、日常生活を掘り下げます。人とのかかわりの苦手な主人公が、その記憶の掘り起こしながら、いろいろな関わり合いをもっていきます。
今回の芥川賞受賞作がつまらないものとは言いませんが、こちらの作品のほうが読みごたえはあるように見えます。作家としての注目度はちがうのでしょうが、現在を過去とつなぐこうした作品に、柴崎さんの本領はあるのかもしれません。