分裂

竹内泰宏『第三世界の文学への招待』(御茶の水書房、1991年)です。
著者はながくアジア・アフリカ連帯の仕事をしてきたので、この本でも、そうした経験について述べています。南アフリカの詩人の来日のときの話など、たしかにアフリカについての先入観など打ち破るようなものであるでしょう。
けれども、こうした仕事が、いろいろな面で混乱の後遺症をもっていることも忘れてはいけません。1950年代にアジアアフリカ作家会議がはじめてもたれたとき、日本でも「アジアアフリカ作家会議日本協議会」という組織ができていました。しかし、1960年代なかば、アジアアフリカ作家会議が、分裂して集会を開くことになります。そのいきさつは、窪田精さんの「洪水の季節」(『死者たちの島』に収録)という作品に描かれているのですが、カイロやベイルートで分裂側の会議が行われ、それに対抗して開かれる北京での会議に、窪田さんをモデルにした作家が参加します。ところが、その会議では、分裂した側を敵視する集会の様相を呈し、それに追随する日本側のひともいるということになります。結局、北京の会議に出た側の組織はいつのまにか消え、日本協議会も消えてしまいます。そして、カイロ・ベイルート側のひとたちで、「日本アジアアフリカ作家会議」がつくられてしまうのです。
それも、ソ連崩壊のあとどうなったか。この本が、それとほぼ同時に出たのも、虫が知らせたのかもしれません。