既知と未知

福田和也さんの『乃木希典』(文春文庫、2007年、親本は2004年)です。
福田さんの人物評伝は、1960年生まれという年齢からいって、ちょうど『坂の上の雲』の単行本が完結した時代に小学生から中学生になるやならずという、いろいろな近代史や戦記ものが出た時代によみふけった過去をもつのではないかと想像させるものがあります。石原莞爾をあつかった『地ひらく』のときも似たようなことを感じたのですが、この乃木論でも、司馬遼太郎への対抗意識が本人自覚していなくても、根っこにあるような気がします。
それが、逆に、一定の予備知識も必要とするようで、ある程度乃木将軍について知っていないと、わからない、というか、生涯を順を追って説明しようという感覚は、あまり感じられません。
それも含めて、福田さんらしいといえば、いえるのですが。