2011-01-01から1年間の記事一覧

10年

9月11日といえば、どうしても10年前のこととか、1973年のチリのアジェンデ政権の崩壊とか、いろいろと出てくるのですし、リービ英雄さんの「千々にくだけて」で、〈ground zero〉を主人公が〈ばくしんち〉と日本語で変換してしてしまうこととか、あるのです…

あとは野となれ

司法試験の合格者の割合が、全体で3割台だそうです。 移行期間もおわって、法科大学院を修了しないと受験資格がなく、それも修了後5年のうちに3回しか受験機会が与えられず、そこで合格できないと、ふたたび法科大学院に行きなおさなければならないシステム…

みこしをかつぐ

中里成章さんの『パル判事』(岩波新書)です。 極東軍事裁判のとき、インドから判事としてやってきて、少数意見を固持した人の、略伝です。 たしかに、すごい人で、極東裁判での、被告無罪の要因として、「中国共産党は中国を破壊する存在だから、中国に権…

少しずつ

矢島翠さんが亡くなられたそうです。フランスの1930年代についての本を岩波新書で翻訳された(『パリ1930年代』というタイトルでした)ものしか、直接には読んだことはなかったのですが、加藤周一さんのパートナーとして、一緒にいろいろな活動をされていた…

手が回らない

リービ英雄さんの『我的中国』(岩波現代文庫)『天安門』(講談社文芸文庫)、莫言の『牛・築路』(岩波現代文庫、菱沼彬晃訳)と、中国関連のものをつづけました。都市部の発展だけではみえてこない、中国の農村のそれぞれの事情が、作品としてあらわれて…

被災

日付は変わりましたが、9月1日は1923年の大正関東地震の日です。『図書』9月号には、川本三郎さんが、「文士が経験した関東大震災」という文章を執筆しています。芥川龍之介や永井荷風、佐多稲子や黒澤明たちの体験が紹介されています。 この地震は、相模湾…

住み分け

江戸人物読本『与謝蕪村』(ぺりかん社、1990年)です。 当該人物についての、最近の論文を集成したもので、研究動向や、直近の知られていることなどを考えるための参考書的なシリーズのようなものです。 巻頭に座談会が収録されているのですが、その中で、…

拾い上げ

村井康彦さんの『千利休』(NHKブックス、1977年)です。 以前、大河ドラマでの、江が秀勝と炭屋に化けて軟禁中の利休を訪ねるという場面についてふれましたが、今回、村井さんによると、本当に炭屋に化け手紙をまげの中にいれて、利休に書状を託した人がい…

突出

竹内洋さんの『学歴貴族の栄光と挫折』(講談社学術文庫、親本は1997年)です。 日本の旧制高校を例にとって、エリート層の流れをさぐったもので、いろいろなエピソードもあって、おもしろいものです。 そこで、日本の4年制大学への進学率が15パーセントを超…

歴史性

昨日のつづき『猿楽能の思想史的考察』です。 戦時中の能楽に対する圧迫の紹介だけでなく、著者自身の能楽の内容に関しての分析がこの本には載っているのですが、その中で、能楽の詞章に、呪術的な要素を発見して分析する一部の論者への批判があります。 家…

弾圧

家永三郎『猿楽能の思想史的考察』(法政大学出版局、1980年)です。 家永さんの専門は日本文化・思想史ですから、その面から能楽のありようをさぐっているのですが、その前段として、戦時中に能の内容に、皇室に対する不敬のものありと、改訂や上演自粛をそ…

商才

谷崎潤一郎『幼少時代』(岩波文庫、1998年、親本は1957年)です。 中学時代、最初に読んだ『春琴抄』があまりなじめなかったからか、東京生まれなのに震災のあと東京を捨てて関西に行ったからか、谷崎作品は最近まであまり読まなかったので、愛読者の方にと…

国籍のない

葉山英之さんの『「満洲文学論」断章』(三交社)です。 〈満洲〉にかかわった文学者の紹介という流れの本で、漱石の『満韓ところどころ』のような、旅行者の視点のものから、東北地域で文学活動を余儀なくされた中国の人びと、日本から渡ってきた人たち、さ…

連続と切断

ケネス・ルオフ著『紀元二千六百年』(木村剛久訳、朝日選書、2010年、原著も同年)です。 1940年の日本の、観光ブームや消費意欲について、同時代の出版物などを利用して研究されたものです。 その後の歴史の歩みが、日本を壊滅的な状況にしていったため、…

同じ土俵に

宮地正人さんの『通史の方法』(名著刊行会、2010年)です。 この本、実は岩波新書の〈シリーズ日本近現代史〉の最終巻として予定されていたのですが、内容がそれまでのシリーズの批判的な評価にわたっているということで、岩波書店から注文がついたので、著…

つまずき

岩波新書の〈中国近現代史〉のシリーズ、既刊4冊を読んでしまいました。読み始めると、やっぱり続きが気になるという感じで、4冊目、1971年の国連の代表権を中華人民共和国が獲得したところまでです。 1971年といえば、文化大革命なるものの最中の時期ですが…

これもまた

学燈社の『国文学』が休刊してそろそろ2年になりますが、今度は、至文堂(からぎょうせいに移管された)の『国文学 解釈と鑑賞』も休刊するんだそうです。こうした、学界啓蒙誌がなくなることは、論考を出す場所がますます限られることになります。みなさん…

なかじきり

勝谷誠彦さんの『ディアスポラ』(文藝春秋)です。 彼が2001年と2002年に『文学界』に発表した作品をまとめたものです。そんな昔の作品が、はじめて単行本になったのは、この2つの作品が、原子力施設の大事故で人が住めなくなった日本列島から避難した人と…

自称・他称

ちょっととりとめもないというか。 岩波新書の、〈中国近現代史〉のシリーズの、『近代国家への模索』(川島真、2010年)のなかに、中国の辛亥革命のあと、日本の外交官が、こんごは中国を〈清〉のような個々の国号ではなく、〈支那〉と呼ぶようにと提議した…

救い

金原ひとみさんの『マザーズ』(新潮社)です。 作家のユカ、モデルの五月、主婦の涼子の3人の母親を描いた作品です。ユカと涼子は高校のときの友人で、ユカと五月は仕事上の知り合いだったのですが、3人とも同じ保育園に子どもを預けることになり、そこで接…

現場ゆえ

野里征彦さんの『罹災の光景』(本の泉社)です。 野里さんは、大船渡市に住んでいて、大地震のときには、自宅は津波の被害にはあわなかったのですが、近くに住んでいた、寝たきり状態だった妻の兄に当たる方が津波にのみこまれてしまったのだそうです。 地…

先達

河東碧梧桐『子規を語る』(岩波文庫、2002年、親本は1934年)です。 きのうの記事にもドラマの話をしましたが、香川照之の熱演のため、どうも子規というとそのイメージが強くなってしまいます。著者は高浜虚子とともに、子規の同郷の後輩で、いろいろと面倒…

責任感

山崎正和さんの『鴎外 闘う家長』(河出文芸選書版、1976年)です。 なんでいまごろといわれるかもしれませんが、鴎外の仕事を、家の中での立場とあわせて考えるというのは、けっこう大切な視点かもしれません。ドラマの『坂の上の雲』でも、戦場で子規とか…

分裂

河出の世界文学全集の、『苦海浄土』です。 本編のほかに、「神々の村」「天の魚」と、3部作をすべて収録、ということのようです。 実際の、患者に寄り添った著者の道行きは、最後のほうでは、東京のチッソ本社でのすわりこみに一緒に参加し、そこで会社側と…

見てしまった

小松左京氏、死去。 『日本沈没』(光文社、1973年)は中学生のころだったので、いろいろと科学的な方面なども学んだ気もしています。 東日本の震災と、原発事故を通ってしまうと、あの作品をもう一度、きちんと考えなければならないかもしれません。 あの当…

あからさまに

昨日の記事に、あさくらはじめさんからコメントをいただきました。また、あさくらさんに紹介していただいたサイトにもおじゃまして、コメントをつけてお返事もいただきました。 ですので、コメント返しではなく、エントリーをあらためて、補足をしたいと思い…

知られていたのか

(注意)映画『コクリコ坂から』の設定にかかわる問題提起です。ネタバレのいやな方は、見ないでください。 映画『コクリコ坂から』は、主人公の父親の友情が、ひとつの大きなストーリーの骨格をなしています。親友3人で写った写真(たまたま真ん中になった…

視線

『コレクション 戦争×文学』(集英社)の〈ヒロシマ・ナガサキ〉の巻です。 ひさしぶりに「祭りの場」など読み返したのですが、破壊のなかで生きるすがたが、印象に残ります。この巻の作品に対して、考えなければならないことは多いようです。 ただ、井上光…

掘り起こす

小ネタですが。 娘の通っている大学には、奉安殿として使われていた建物が残っているということを昔書きました。大学の様子を保護者に連絡する通信が最近送られてきたのですが、それによると、今後、その建物に、〈かつて奉安殿だった〉という説明板を設置す…

待っていた

『母が語る小林多喜二』(新日本出版社)です。 多喜二の姉の知り合いの方が、多喜二の母に聞き書きをして、それを出版する計画をたて、予告まで出ながら挫折し、結局原稿が小樽の文学館に保管されていた、という経過をたどったものを、今回荻野富士夫さんの…