商才

谷崎潤一郎『幼少時代』(岩波文庫、1998年、親本は1957年)です。
中学時代、最初に読んだ『春琴抄』があまりなじめなかったからか、東京生まれなのに震災のあと東京を捨てて関西に行ったからか、谷崎作品は最近まであまり読まなかったので、愛読者の方にとっては、既知のことかもしれませんが。
谷崎の祖父の方は、いろいろな商売を発案した(街灯をつけたり消したりする会社とか、相場の速報を刷り物にして売る会社とかがこの本でも紹介されています)ようなのですが、婿入りして後を継いだ谷崎の父親が、それをだんだんと傾けてしまい、生活のレベルも徐々におちていったと、谷崎は回想しています。けれども、夫婦仲はよかったようで、外で飲んでくることもほとんどなく、吉原にも行ったことがなかったようです。妻ひとすじということだったのでしょうね。
そうした家庭人としての側面と、商売人としての側面とが、両立できたら状況は違ったのでしょうが、厳しいものですね。